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2010年09月24日

◆戦略実務の素人に人気?ポーター理論の問題点を考える-2

◆戦略実務の素人に人気?ポーター理論の問題点を考える-2


※競争戦略論の発表直後に自らのコンサルティング会社を興し、巨万の富を築いたハーバード大学ビジネススクールの"スーパースター"、マイケル・E・ポーター教授。しかし、シカゴトリビューン紙記者のオシーア、マディガンの著書『ザ・コンサルティングファーム』によると、その成果には大きな疑問が残る、といった旨の報告がなされている。


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 1980年前後の発表ながら、いまでも非常に人気の高い戦略理論、それがマイケル・ポーターの「競争の戦略」「競争優位の戦略」です。以下、これらの理論に潜在する問題点を、特に実務者の観点から指摘していきたいと思います。

ポーターの戦略理論は、大きく、以下の3つの問題点を抱えていると考えられます。

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①時間軸やそれに伴う諸条件の変化(ダイナミズム)という概念が考慮されていない。

→ ポーター理論の根底には、「相対的に優位なポジションをどう見つけ、自らの事業をそこにどうやって位置付けるかですべてか決まる」という考え方がある。ゆえに、自社の位置付けがわかる業界構造(地図)が明確に特定できること、さらには戦略を成就させるために、一定期間、その業界構造が続くことが前提となっているが、これは現実的にはあり得ない。

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②企業間連携や合従連衡、そして企業優位性のソフト化が進展した昨今の近代経営においては、「5フォース」「バリューチェーン」といった単純なフレームワークで分析することは困難であるばかりか、リスクさえ伴う。

→ 現代の事業環境は、提携や共同開発、ライセンス契約などが複雑に絡んでおり、例えば「競合」や「供給業者」、果ては「顧客」までもが簡単には特定できない。例えば、競合が、ある事業領域においては技術やパテントの供給元となったり、B2Bなどでは顧客が自社の得意分野に一部参入したりするのは珍しいことではなくなってきている。

→ インタンジブル(ソフト)な競争優位性をバリューチェーンなどの可視化手法で特定するのは容易ではない。また、競合相手ごとに優位性が異なるゆえ、バリューチェーンによる普遍的な優位性を断定するのは困難である。

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③自社事業に関連する周囲の関係者を敵対関係あるいは優位性を行使する対象とみなし、スイッチングコストやロックインといった考え方で対峙していく考え方は問題がある。顧客との価値共創、企業間連携やネットワーク化といった「ともに価値を創り上げる姿勢」が重要な戦略手法となっている現代においては、むしろマイナスに働きかねない理論である。

→ 「周囲の存在すべてを競争または駆け引きの相手」とみなし、全社で活動をはじめると、過度なコスト削減の強要や顧客ロックインなど近視眼的な行動が多発する可能性が高くなる。

→ 「分析結果が正しくすべてである」という中央集権的な経営が行われてしまうと、チャレンジ精神や創意工夫は影をひそめ、石橋をたたいて渡るような行動が蔓延し始める。当然のことながら、現場の臨機応変な判断力なども衰えてくる。



 一般的に、ポーター理論に対しては、①、②が批判の対象となるようです。しかし、経営者や実務者は、むしろ③で想定されるような悪しき行動スタイルがガン細胞のように組織をむしばむことの方に危険を感じると思います。ひとたびこうした体質が浸透すると、組織の考える力が低下し、何事にも消極的になってしまう。また、これを改善するには数年のリハビリ期間が必要になってしまいます。

にもかかわらず、このあたりに想像が及んでいないポーター理論は、(特に21世紀のソフト化社会においては)まさに「机上の理論」であると言わざるを得ません。

 最後に、なぜポーター理論が(経営学の世界における)戦略理論の最高峰とされてきたのか、なぜ多くの人たちから支持を得ることができたのかについても簡単に触れておきたいと思います。

いくつか要因がありますが、顕著な理由として、理論全般にわたって分析技法がマニュアル的に記述されており、なおかつフレームワークなどが視覚的にわかりやすいという点がまずあげられます。

言い換えると、豊富な実務経験からくる洞察や想像力を要求する内容ではないゆえ、戦略レベルの意思決定に関与したことがない人たち、すなわち学者や学生、若手サラリーマンなどを「わかったつもり」にさせやすいという面があるのです(※1)


 企業が存続するための方法は、決して競争に勝つことだけではありません。競争は(できるかぎり回避すべき)一手段に過ぎず、決して目的とはなりません。むしろ、長期にわたり存続してきた企業は、不必要な争いは避け、社会という生態系への融和を必死に模索することで発展・成長してきたのです。

しかし、周囲のすべてを駆け引きの相手とみなし、圧力を行使することで優位性を保とうとするポーターの思想は、これを否定するものと考えざるを得ません。現代のネットワーク社会や共生社会、ソフト化社会においては、むしろ「時代への逆行を誘引する考え方」であると言わざるを得ないのです。

 われわれ実務者は、このようなあまり現実的ではない理論にとらわれることなく、あくまでも、価値を創造することで社会や顧客に貢献していく、といった姿勢を第一義に持たなければなりません。

すなわち、社会・顧客への貢献を実現できる製品・サービスづくりや体制づくりを目指す文脈において、市場や顧客、同業他社、取引業者などの考え方や動向に謙虚に学ぶことで自らを磨きあげる(=結果として市場優位性を築き上げる)といった道のりを歩んでいくべきなのです。



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※1: 三菱総研主席研究員の武藤泰明氏は、ポーター理論は「コピー&ペイスト」しやすく、それゆえ「戦略実務の素人に人気を得やすい理論」としています。また、昨年12月に『ドラッカー生誕100周年記念講演会』で私と講演の機会をともにしたローランドベルガー会長・早稲田大学院の教授、遠藤功氏は、同講演の中で「ポーター理論からは、本当の経営も戦略も学べない」と述べられています。


※情報ソース:
 本コラムの論理展開の根拠となる情報のかなりの部分が、私のコンサルティング業界の人脈を通じて得た、ポーター理論を試したり導入コンサルティングを受けたりした企業の実例に依拠しています。


※主な参照文献:

◇Porter, M.E., Competitive Strategy, The Free Press, 1980
   (マイケル・E・ポーター、土岐坤・服部照夫・中辻万治訳『競争の戦略』、ダイヤモンド社、1980 年)
◇Porter, M. E., Competitive Advantage, The Free Press, 1985.
   (マイケル・E・ポーター、土岐坤訳『競争優位の戦略』、ダイヤモンド社、1985 年)
◇Kenichi Ohmae, The Mind Of The Strategist: The Art of Japanese Business, McGraw-Hill, 1991
   (大前研一『ストラテジック・マインド』プレジデント社、1984年)
◇James O'Shea, Charles Madigan, Dangerous Company: The Consulting Powerhouses and the Businesses They Save and Ruin
   (オシーア、マディガン 『ザ・コンサルティングファーム―企業との危険な関係 』1998年、日経BP)

◇大前研一 『競争は戦略の目的ではない』ダイヤモンド社ハーバードビジネスレビュー、2007年2月号
◇ヘンリー・ミンツバーグ 『H.ミンツバーグ経営論』ダイヤモンド社、2007年
◇武藤泰明 『ほんとうにわかる経営戦略』PHP出版、2003年
◇御立尚資 『戦略「脳」を鍛える』東洋経済新報社、2003年



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Posted by ジェイ・ティー・マネジメント田中事務所 at 08:30│Comments(0)使える戦略理論を考える
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