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ジェイ・ティー・マネジメント田中事務所の代表、田中です。日比谷のオフィスを拠点に、起業家、経営者に対し、濃密な支援を行っています。いつでもお気軽にコンタクトしてください。              ※詳しい経歴は、カテゴリ(左バー)の「My Profile & 会社概要」をご覧ください。
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2010年03月25日

◆二次情報に立脚した“学者理論”の妥当性を考える



              ※写真左から、日産のゴーン社長、メガネ21の平本氏、
               マクドナルド原田CEO、1人おいてユニクロ柳井CEO、ディーエヌエー南場社長


 本コラムでは、主に、文献や各種のメディアなどから得られる「二次情報に依存して組成される2つのタイプの経営・戦略理論」について議論したい。

 経営・事業戦略理論を「出自」という切り口で大別すると、主に経済学のフレームをもとに発想した「経済学モデル依存型」と、成功例を現象追従的に観察した「成功事例集約型」の2種類に大別される。いうまでもないが、これらのタイプに限らず理論構築の際には、理論生成の際に利用される情報やモデルが「ファクトである」あるいは「臨床的にその有効性が実証されている」ことが(少なくともある程度は)担保されていなければならない。

たとえば、経済学モデルであれば、当該モデルの有効性が世の中の経済活動において実証されている、すなわち、ある変数に対して働きかけを行うと、そのモデルにおいて相関関数として設定された変数が動き、想定した通りの変化が起きることが証明されていなければならない。

しかし、これらのモデルは、当の経済学の分野においてさえ現実的ではないと批判される前提条件を抱えているものが少なくない。少なくとも経営のレベルに適用するにはあまりにも非現実的な前提が多すぎるゆえ、特にダイナミズムを含む経営・事業戦略理論の素材とするには適切とはいえない部分を少なからず含んでいる。そして、そのような状態のまま経営・戦略理論に転用されている例があまりにも多いのである。


 一方の成功事例集約型の経営・戦略理論についても、その存立基盤となる情報への疑念はぬぐえない。スタンフォード大学ビジネススクールのフェッファー、同エンジニアリングスクールのサットンによれば、生き残った会社、特に大成功した会社だけを取り上げて、何が良い手法かを考えようとすると、大変大きな間違いを犯す危険がある、とズバリ指摘する。

両教授いわく、

「リスクが高く、普通とは違った戦略を取る会社は、普通の会社と比べ、大成功するか大失敗するかのどちらかだろう。会社の資源を限られた範囲の商品に集中させる戦略は、全部の卵を一つか二つのカゴに入れてしまうのと同じでリスクが高いが、そうした難しい戦略を取って大成功している会社だけを取ってみれば、資源を集中する戦略がいつも良いように見える。こうした間違いを犯さない唯一の方法は、成功した会社だけでなく、失敗した会社にも注意を払い、なぜ失敗したかを理解することである」

ということである。


また、両教授は、

「(経営の)グルは往々にして経営の難しさを単純化し過ぎるきらいがあり、新しい手法の実践について、あたかも機械を設置するかのように言うのは大変危険である 」

とも述べている。


 さらに、スイスIMD教授のローゼンツワイグも、成功例だけを取り上げて一般化を図ることの危険性を指摘している。同教授いわく、

「従属変数にもとづいた標本抽出、すなわち結果に基づいたサンプル調査は間違いであり、たとえば高血圧の原因を探る際、高血圧の患者のみならず、血圧の高くない人の調査を行い、それらを相互比較することで初めて原因がわかる」

としている。

さらに同教授は、このようにも言い切っている。

「雑誌や新聞、刊行物、経営者に過去を振り返ってもらう形でインタビュー、などの二次情報や方法はハロー効果にゆがめられている可能性があり、このような情報をいくら集めても意味がない」


 これらの主張の意味するところは、偏ったサンプルを集約して抽出されたモデルや理論は、少なくとも汎用的なものにはなり難いこと、リスクと隣り合わせになる可能性があることを示唆している。さらに、二次情報を過度に用いることは、誤差を累積させることにつながり、「真実の姿がゆがめられる」恐れがあることを示していると解釈することができる。

そして、多くの理論は、この二つの方法を同時、またはどちらかに(過度に)依存しながら用いている。こうしたプロセスを経て組成された理論のすべてに問題があるとはいわないが、少なくとも、実態を正確に表しているか、リスクの高い前提が潜んでいないかを注意深く見る必要があると考えるのが妥当ではないだろうか?

特に、現代の経営においては、事業体の内部で生成される、独自のノウハウや視認が難しい資産(インタンジブル・アセット)が企業競争力の源泉となってきている。ゆえに、他の学問のわく組みをあてはめて一般理論化されたものや現象の観察のみに依存した理論には特に注意を払い、その前提や自社にとっての意味合いを熟考したうえで取り入れたり、参考にしたりする姿勢が、以前にもまして重要になってきている。


 私なりの結論を述べよう。経営理論を有効活用するための最も有効な処方箋は、当ブログでも繰り返し述べているように、まず、自社独自の「腹に落ちる」経営理論や戦略フレームワークづくりに知力をふりしぼってチャレンジすることである。そして、実践を通じてこれらを進化させるための「手段」として、経営・戦略理論や各種情報の取捨選択を行い、自社にとってのエッセンスを抽出し吸収する、といった学習スタイルを確立することが正しい経営のあり方であり、実務者のあるべき姿である。

別言すれば、知識をわが社独自の「知恵」に昇華させるスキルを何よりもまず確立しなければならないということである。

われわれ実務者は、この姿勢なくして理論(知識)の有効活用はあり得ないこと、および優れた経営者は理論や手法に依存する前に「自分の頭で考え抜く」というやり方を第一義に経営を行ってきているという事実をしっかりと理解し、明日からの実践に取り組んでいきたいものである。


 なお、ある理論を検証するための手軽で効果的な方法としては、本ブログでも取りあげた「因果律ループ図」などの動的なツールを用い、「当該理論を導入するとどういった因果律で何が起こるか」をシミュレーションしてみることが有効である。

このとき、まずはワークショップ形式などにより、定性的評価を中心とした喧々諤々の議論を通じて大筋の因果律を洗い出し、改めて、随所にデータを絡めていくつかの因果律のパターン(想定シナリオ)を特定していく、といった順序で行うと良い。自社の意外な特性や長所・短所が見えてくる場合がしばしばあるので、この意味においてもおすすめの方法である。



◆参考文献:

Pfeffer, J., & Sutton, R.I., Hard Facts, Dangerous Half-Truths, and Total Nonsense: Profiting from Evidence-based Management, Harvard Business School Press, 2006
(ジェフリー・フェファー&ロバート・I・サットン著、清水勝彦訳『事実に基づいた経営―なぜ「当たり前」ができないのか?―』東洋経済新報社、2009年)

Rosenzweig, P., The Halo Effect, ... and the Eight Other Business Delusions That Deceive Managers, Free Press, 2007
(フィル・ローゼンツワイグ著、桃井縁美子訳『なぜビジネス書は間違うのか―ハロー効果という妄想―』日経BP社、2008年)



こちらでもご覧ください。
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Posted by ジェイ・ティー・マネジメント田中事務所 at 00:05Comments(0)使える戦略理論を考える

2010年03月09日

◆ホントに問題解決できるのか?従来型ロジカルシンキングの限界




    ※因果ループ図のイメージ ~組織の機能や問題は、いくつもの循環構造が相互作用して動的均衡している.
      出典:Business Dynamics
            -Systems Thinking and Modeling for a Complex World(Sterman, J.D.)



 従来からある思考法のうち、もっとも代表的であり、多くのコンサルティング会社などで使われている手法に「要素還元法」(いわゆるロジカル・シンキングは、ほとんどがこの方法を指している)がある。これは、問題を論理的に階層やプロセスといった任意の軸をベースにして構造化し、分析を行うための代表的な手法であるといわれる 。 

要素還元法の前提にあるのは、ある事象や現象は独立した別個の要素に分解できるものであり、分解した要素のいずれかまたはいくつかに問題が潜んでいる、さらに、その要素を再び組み上げると、ある事象や現象が再現され元通りに機能する、といったものである。

しかし、あらゆる問題が複雑化しソフト化する傾向にある昨今、この方法は大きな問題を見逃すリスクを孕んでいる。まず、分解された要素の相互関連性や全体を薄膜で包み込むような問題が見えにくいという点である。

これは、たとえばエンジンなど、まさにここが独立した要素たる部品を組み上げてつくられた機械などに置き換えて考えると分かりやすい。

要素還元的な考え方では、分解したパーツのどれか、あるいはいくつかが個別の問題を抱えていると考え、これを分解して問題個所を特定しようとする。しかし、たとえばパーツどうしがお互いに影響しあって高熱を発する、あるいはそれぞれの寸法の微妙な誤差が累積して異常な振動が起きる、といった影響に関しては逆に見えにくくなってしまうという欠点がある。

いわば、問題の構造をまさに機械的なメカニズムとしてとらえていることになるわけだが、こうした考え方では問題を構成する要素への個別または積算値への対応以外は不可能となる。つまり、問題Aに対しては対処法A、問題Bに対しては対処法Bといった対応、またはそれらの問題の積み上げへの対応が前提になっている考え方といえる。

ゆえに、もともと、ある構造が全体にわたって保有する問題(たとえば組織カルチャやある種の行動パターンなど)に働きかけるような解決は困難になる。


 これに対して、システムズ・ダイナミクスの領域で提唱される「因果関係のループ構造(Causal Loop Diagrams)」というものがある。この考え方は、対象をひとつの動態的な系としてとらえようとする。

関連するすべての活動(アクティビティ)や事象・現象が連なる連鎖・循環構造を特定し、大元の発生原因を構成する要素すべてに働きかけ、循環構造に変化を起こすことで問題解決を図ろうとするものである。

これらは、現時点では、どちらが優れている、というよりは、状況や対象に応じて使い分けるのが賢明であろう。

たとえば市場の反応や経営・事業戦略レベルにおける活動分析など不透明な要素が多い領域には因果ループ構造分析を、財務比率の分解やリスクの体系的なマネジメント、生産システムの効率化など視認・捕捉しやすい(機械的システムと見なしやすい)領域には要素還元法を、といった具合に使い分けると良いのではないか。

ただし、経営・事業活動はソフト化の度合いをますます強めており、企業の競争優位性もインタンジブル・アセット(目に見えない資産)に依存するようになってきている。ゆえに、生み出される現象や結果は、さまざまな要因が複雑に絡み合ったものとしてできあがるようになってきており、自然科学でいう生態系の様相を呈していること、単純な要素に分解しただけでは、本当の要因や原因がつかめないケースが増えてきていることは頭に入れておきたい。


 ちなみに、企業活動を分析する際、事業体を機械的なシステムととらえるのか、ハード、ソフトが混然一体となった生態系ととらえるのかといった違いが出てくる背景には、その手法を用いる人間や機関のバックグラウンドも関係していると思われる。

前者は主にMBAを多数擁した外資系コンサルティング会社が多用するやり方である。これに対し、後者は(常に臨床実験を持ってその妥当性を検証しようとする)自然科学者のアプローチである。これをさらに一歩踏み込んで表現すると、前者は机上で考えることを容易にする手法であり、後者は事実や実態を(人間の感情などのソフト情報も含めて)知覚・認識できなければ始まらない手法であるといえる。


 繰り返すが、経営・事業活動やビジネス・モデルはますますソフト化・生態系化の様相を強くしている。あらためて問題を機械的・断面図的にとらえようとする「要素還元法」には限界があることを知ると同時に、自然科学的なアプローチにより組織構造をとらえようとするダイナミック(動態的)な思考法の必要性が高まってきていることだけは、しっかりと覚えておきたいものである。



◆参照文献:

Sterman, J.D., Business Dynamics: Systems Thinking and Modeling for a Complex World, McGraw Hill Higher Education, 2000(ジョン・D・スターマン著、小田理一郎・枝廣淳子訳『システム思考―複雑な問題の解決技法―』東洋経済新報社、2009年)

高杉尚孝『問題解決のセオリー―論理的思考・分析からシナリオプランニングまで―』日本経済新聞社、2006年

後正武『意志決定のための分析の技術-最大の経営成果をあげる問題発見・解決の思考法』ダイヤモンド社、1999年

イーサン・ラジエル『マッキンゼー式世界最強の問題解決テクニック』英治出版、2002年




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