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ジェイ・ティー・マネジメント田中事務所の代表、田中です。日比谷のオフィスを拠点に、起業家、経営者に対し、濃密な支援を行っています。いつでもお気軽にコンタクトしてください。              ※詳しい経歴は、カテゴリ(左バー)の「My Profile & 会社概要」をご覧ください。
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2011年03月14日

◆真の事業計画とは?~旧来型事業計画のあり方を見直そう




※力強く、かつ機動的な軍隊の作戦においては、常に「戦略」と「戦場における実戦の成果」の照合を通じて、戦略をスピーディに修正・高度化させるための作業が行われている.



◆ニュース雑感:

『ANAがJAL上回る、10か月累計旅客実績』
 (2011年3月10日(木)読売新聞) 

 ANAがJALを10か月間の顧客累積実績で上回ったようです。2010年通期でも上回る可能性が大きくなり、もし実現すると、2002年度以降初めてとなるそうです。

 ANAとJALは、日本の代表的な航空会社としてよく引き合いに出されます。しかし、その組織体質や企業カルチャはかなり異なります。JALはまさに官僚体質が蔓延しており、意志決定も遅く、今回の経営破たんにおいても、いまだに懲りていない幹部クラスの社員が大勢いるといわれています。

一方のANAは、10年余りにわたって改革をリードしてきた大橋現会長のスタイルからもうかがえるように、“暴れん坊”といってもいいような人材が幹部クラスにも結構いるなど、さまざまなチャレンジをする体質があります。

あまり知られていませんが、ANAは、2000年頃から、継続して、内部の業務改革やコストダウン(空港業務の改善や無駄な宣伝材料費の削減、空港物流の統合による効率化など)、グローバルネットワーク(スターアライアンス)に焦点を当てた運航体制の整備、人材教育への積極投資なども地道に続けてきているのです。

 今回の逆転劇は、ライバルのJALの失速という理由だけではなく、世界を睨んで組織の内外でさまざまな努力を続けてきたANAの成果が表れ始めている証左だと思います。


○ANAがJAL上回る、10か月累計旅客実績(読売新聞3月10日)


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◆本日のコラム:

 さて、本日のコラムにまいりましょう。

 会合などで知り合った経営者に「事業計画を作っているか」ときくと、みなさん、自信満々に「作っている」と答えます。しかし、その中身を見せてもらうと、たとえば「製品の売上高が毎月10%ずつ増加していく」「コストが毎月数%ずつ下がる」「原価構成が年間を通して安定している」等々、あまり根拠のない数字が並べられていたりします。

また、ファクトと希望的観測が混在していたり、現場がどこに努力を集中するかといった「勘どころ」が不明瞭だったり、肝心の、計画を具現化するための実行計画が欠落していたり、といったものも目立ちます。

要するに、単なる数字合わせや過去の延長線上の経験則を整理し、そこに少し願望を加えただけのようなものが実に多いのです。

こうした計画は、いわば事業計画の皮をかぶった「経験則整理書」「銀行向け説明書」(アスキー創業者・西和彦氏のことば)、あるいは「よき意図の表明」(P.F.ドラッカーのことば)に過ぎないといわねばなりません。すなわち、こうしたものには、事業の可能性をどう掘り起こしていくか、勝ちパターンをどう組織で共有し、利益を積み上げていくか、といった一番肝心な考察が抜け落ちているのです。
(銀行を説得できたとしても、肝心の社員有志に響かない計画書では、本末転倒といわれても仕方ありませんよね)

たしかに、全体の経営数値やタスクを体系的にレビューしたり、過去の経験則を整理したり、という意味においては、項目や数字をズラっと並べた計画書を作ることは必要です。小規模な企業であれば、こうしたものさえ作れば、あとは社長の掛け声ひとつで何とかなるかもしれません。しかし、少なくとも複数の製品系列や事業部を持ち、ある程度の規模を持つ企業は、これを事業計画のすべてとしてはいけません。

戦略的ポイントや勘どころを事業ごと、あるいは各部隊ごとにしっかりと明示し、「どこに活動努力を集中すればよいかが直感的にわかるレベル」「これらを積み重ねると、事業戦略にどう貢献するかが瞬時にわかるレベル」にまでこなれた形で、事業計画書の中に明記することが重要です。

 ちなみに、こうした議論をすると、実務経験に乏しい人に限って「戦略と戦術は分けるべきだ」などと言い始めます。しかし、事前に立てた予測や計画が昔ほどには機能しなくなり、戦略そのものを進化・高度化させながら前進していかなければならない昨今において、それら(戦略と戦術または計画と実行)は、頭で考えるほど明瞭に区分できるものではありません。

つまり、戦略と戦術は常にリンクし同期しながら進めなければならないものとなったのです。具体的に言うと、実行活動は、成果をあげるのはもちろんのこと、戦略をさらに進化・高度化させるための情報収集機能やセンサー、実験的行動の場の役割をも担わなければならなくなったということです。

(★私は、もともと昔から、優れた企業ほど戦略と戦術は、一体のものとして運用されていたと考えていますが、これはまた機会を改めて論じたいと思います)

 機能分担に基づく経営・事業計画や戦略立案手法のほとんどは、過去の右肩上がりの経済環境を背景に考案されたもので、これらは、すでに過去のものになりつつあるのです。

われわれ実務家は、戦略と戦術、あるいは計画と実行は表裏一体のものであり、常に両者が相互作用し、高め合いながら進めるべきものになってきたことを改めて認識しておくべきです。

 惰性や経験則のみで従来スタイルの計画作りに取り組んでいないか、実際に計画と活動実態がかい離していないか、計画はどの程度成果をあげているか、あるいは、経営や実戦の経験がない“専門家”に勧められた方法を妄信していないか等々、経営・事業計画についての考え方をゼロベースで見直してみることを、ぜひともお勧めしたいと思います。



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Posted by ジェイ・ティー・マネジメント田中事務所 at 12:32Comments(0)使える戦略理論を考える

2011年02月14日

◆見えない資産活用戦略~既に上手くやれていることを掘り起こせ




※自社が「すでに上手く行えていること」を応用展開できる空白地帯はまだまだあるかもしれない。


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◆ニュース雑感

『エジプト:政権崩壊、ネットで連帯 新たな民衆革命の姿』
(毎日新聞 2011年2月12日)

 ムバラク大統領が辞任し、30年にわたって維持されてきたエジプトの独裁政権が崩壊しました。

つい先日も、本ブログで「ウィキリークスのジュリアン・アサンジさんが『パンドラの箱』を開けたのではないか」ということを書きましたが、早くもその余波が、具体的な形となって表れてきたようです。

すなわち、かつてないほどのスピードとパワーで、国家権力などの大きな枠組みを揺さぶる、といった大規模な活動が常態化する様相を見せ始めているのです。

 かつては、いわゆる独裁・強権政治体制を維持するために、情報や言論を人々が共有できないようにして、大きなパワーにつながる連携・連帯を阻止する必要がありました。

しかし、国家の制約を(実質的に)受けないネットや携帯電話の普及で、正確な情報が写真や動画などを伴って共有されるようになり、以前と違って格段に人々が連携しやすくなりました。

さらには、各国の政府を慌てさせたウィキリークスやチュニジア政府崩壊などの“成功”事例が積み重なって、人々が、さらにネットのパワーに確信を持ち始めたのが、こうした活動が連鎖する大きな要因の一つになっているのだと思います。

こう考えると、最初に、国家を向こうに回してネットによる言論パワーを行使した(パンドラの箱を開けた)ジュリアン・アサンジ氏にノーベル平和賞を、との声は、あながち突飛な提案とはいえないのかもしれません。


○参照(毎日新聞): エジプト:政権崩壊、ネットで連帯 新たな民衆革命の姿


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◆本日のコラム

 企業の新たな強みとなる可能性を秘めている領域にインタンジブル・アセット=目に見えない資産という領域があります。この議論を行うとき、まず出てくるのがブランド、知的所有権などです。しかし、これらは企業が保有するもののほんの一部にすぎません。

本コラムでは、これらはひとまず置いて、ほかのインタンジブル・アセットに焦点を当てて考えてみましょう。

まずはどのようなものがあるか、思いつくものをざっと並べてみます。


 ◇すでに開通している顧客へのアクセスルート
  (現在、接触が途絶えている顧客へのルートも含む)

 ◇すでに蓄積している各種顧客・市場情報

 ◇ある対象を分析したり管理したりするための体系的なスキル
   -経営データ分析スキル
   -原価管理スキル
   -購買部門の購買スキル
   -顧客管理機能 /その他

 ◇本業をサポートしているような業務スキル
   -物流・サプライチェーン運用スキル
   -カスタマーサポート機能
   -コールセンター運営スキル・ノウハウ
   -メンテナンス・スキル /その他


 これらは、通常は、資産としてとらえられることはありません。なぜなら、自分たちの事業を行うためにしか使われておらず、顧客や市場へ提供していく、といった発想は多くの当事者(当該部門で働く人たち)が持っていないからです。

しかし、実は、これらは「他者から見るとうらやましい得意技」である場合も少なくないのです。そして、現実に、これらを他の機能と組み合わせたり、適用する対象や場所を変えたりすることにより、大きなコストをかけることなく、既存の事業活動を進化・高度化させることが可能になることがあるのです。
  
一例を上げましょう。

ある米国の中堅の薬剤・医療キットの卸・物流会社は、おもに、大手の医療施設に対して、緻密な仕分け&パッケージングを行ったり、細かくジャストインタイムで配送するなど、差別性の高い物流スキル体系を持っていました。

ある日、彼らは気が付きました。この物流ルートは、医療施設の入り口までのもので、その内部にまでは及んでいないことを。そして、自分たちの緻密なスキル体系をその内部にまで拡張できないものかと。

同社はまず、施設内部のモノの流れを精査してみました。すると、医療キットや薬剤の仕分け・トレイに乗せる作業、各部署へ配布する作業を、本来の担当ではない看護師や医療事務員が、1日に何時間も費やして行っていることがわかったのです。

そこで、問題を解消するべく、同社のノウハウを応用して、薬剤や医療キットが最終ユーザーに円滑に届くための「病院内のミニ・サプライチェーン」を設計し、既存の物流サービスに接続して提供し始めました。

その結果、この会社は売上げ・利益率を伸ばし、固定客が増加したのです。

 もうひとつの成功事例をあげましょう。

これは私が実際に行ったある物流サービス企業の例で、以前のコラムでも述べたものです。

この会社は長年、物流の世界に居ますが、最近はお客様からコストを転嫁されるケースが多くなり、収益悪化に苦しんでいました。

しかし、そうした逆境にあったことで鍛えられていたスキルがありました。顧客からの厳しいコスト転嫁に耐えていくために物流管理部門が行っていたコスト分析力が非常に精緻な体系になっていたのです。

そこで、新たに、自社の分析スキルを既存の物流サービスに組み込みました。顧客が製品にかけるコスト配分の妥当性を細かく分析し、それにフィットした物流サービスを設計し提供する、といったスタイルに、自社のサービスを進化させたのです。

その結果、コスト競争力のある物流システムの設計・運用ができる会社として認識され始め、価格転嫁される案件を減らすことに成功しました。

 前述したように、目に見えない資産、というとブランドや知財にばかり目を奪われがちです。しかしこれらの事例が示すように、「すでに上手く行えていること」を掘り起こし、他の機能やスキルと融合させることにより、自社のビジネスを進化させることもできるのです。

多大な投資をしたり、外部のコンサルタント会社などに、他力本願的に解決策を求めたりするまえに、まず、自社組織に正面から向き合い、インタンジブル・アセットを丹念に掘り起こすアプローチをおすすめしたいと思います。




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2011年01月26日

◆「林原」破たん~社会機関としての事業体マネジメントを考える




※多彩な事業展開で知られる林原グループ.おそらく当事者である従業員にも、なぜグループが現在のような事業構成になっているかを、社会貢献との関連から簡潔かつ明りょうに語れる人はいなかったのではないか?


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 本日はいきなりコラムに参りましょう。

 トレハロースの開発・製造や「研究開発に目的は必要ない」などの“ユニーク”な経営観で知られる岡山のバイオ関連企業「林原グル-プ」の企業4社が、1000億円の負債を抱えて、事業再生ADR(私的整理の一種)を関連機関に申請していることが明らかになりました。


○記事詳細/毎日新聞:
 『林原:私的整理を申請 負債1000億円、多角化が経営圧迫』
 (毎日新聞 1月26日(水)2時30分配信)


同社は食品バイオの研究からはじまって、美術館の経営、恐竜の化石発掘、チンパンジー(類人猿)の研究、レストラン・ホテルの経営など多彩な事業展開を行っています。そのユニークさで、一時期は、テレビ東京の『カンブリア宮殿』やNHKの教育テレビの題材、研究者による書籍などで盛んに取り上げられていた企業です。

特に、組織づくりや経営観に関しては独特のものがありました。まるで時代に逆行するかのごとく、組織を同族や縁故採用、地元採用で固め、顧客のニーズを考えない、常にオンリー・ワンをめざす、などの方針を打ち出していました。

そんな同社ですが、私が何よりも気になったのは、冒頭にある、最高経営責任者である林原健社長が「研究開発に目的は必要ない」という言葉を、あたかも社是のように発していた、ということです。

もちろん、社員の自由な発想を促すため、過度な利益責任やプレッシャーから解き放つ環境をつくることは重要です。実際にそれが、斬新なアイデアの呼び水となることに異論はありません。

しかし、これを、あたかも社会機関の一部である会社のあり方、あるいは事業経営のやり方のように発信し、現実の事業体にまで、目的や脈絡がわかりにくい事業展開をやらせてしまってはいけません。

やはり、会社という「社会の生態系の中に生きる機関」は、何らかの形で社会に貢献することでしか生かされないという根本的な原理を忘れてはならないのです。

 ドラッカーは特に晩年、(林原のような)知識労働者を擁する会社のあり方を、よくオーケストラに例えていました。

それは「会社という機関は、個人の可能性や強みを存分に引き出し、それを美しいハーモニーになるように組み合わせ、社会に向けてわかりやすく発信していく重要な機能を担っている」という主張です。

これにそって考えれば、おそらく林原氏は、個人に対するマネジメント方法と、社会機関としての組織をマネジメントする方法を混同しているところがあり、それを開発体制のみならず、事業展開のスタイルにまで波及させてしまった部分があったのではないでしょうか。

したがって、財務リストラにとどまらない、根本的な経営の再建をめざすのであれば、このあたりをもう一度きちんと整理し、改めて「社会への貢献」に焦点を当てながら、いま抱えている資源、資産を最大限に生かすための組織や事業グループのあり方、あるいはマネジメント体制のあり方を考えてみる必要があります。

「目的は組織の外にある」とは、これもドラッカーの言葉ですが、目的や存在意義を社会の中に見出せない企業は生き続けることはできないのです。

林原グループには、この不変の原理から目をそらさずに、しっかりと再建の道を歩んでいってほしいと思います。



○記事詳細/毎日新聞:
 『林原:私的整理を申請 負債1000億円、多角化が経営圧迫』
 (毎日新聞 1月26日(水)2時30分配信)


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2011年01月20日

◆「コミュニケーションが組織を強くする」は本当か?




※「ケミストリー(チームワークによる相乗効果)が勝利を生み出すのではなく、勝利がケミストリーを生み出す」とは、NYヤンキース監督時代に地区優勝10回、ワイルドカード獲得2回という実績を持つ名将ジョー・トーリ氏の言葉である。



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◆ニュース雑感:

『オムロン次期社長に山田氏 若さ、統率力前面に』
(京都新聞1月18日)

 オムロン(立石電機)に、49歳の社長が誕生しました。執行役員から11人抜きで就任した山田義仁氏は、つい最近まで国内外の第一線でにビジネスをドライブし、競争が厳しい海外事業や販売部門でしっかりと成果を上げてきた人で、何よりも能力と行動力が評価されたのだと思います。

かつてよく見られた、あまり現場には口出しをせず、大きく構えておけばよかった大企業の経営者像とはかなり異なるタイプの人です。筆者は個人的には、同じCOOから社長になったカルロス・ゴーン日産自動車社長や、世界中を駆け巡り、現場で陣頭指揮を執り続けながらIBMを復活へと導いたルイス・ガースナー氏に通じるタイプだと思います。

これからの経営者には、スポーツに例えていえば、プロ野球の監督だった野村克也氏やその愛弟子の古田敦也氏のように、キャッチャーマスクをかぶり、自らも戦いの場に身をおきながら、チーム全体のマネジメントも行っていけるようなタイプが求められるように思います。

別の例に例えると、航空機に乗って上空から全体を俯瞰しながらも、変化の兆しを見つけると、自らがパラシュートを背負い、その場所へ急降下していくようなタイプです。ローソンの新波さんもこのタイプかもしれませんね。
(ちなみに某国産航空会社の会長のような、お膳立てされている現場を行列を従えて視察する、といった行動を指すのではありません。念のため)

 オムロンのこの人事は、変化が激しい昨今、環境変化の兆候を鋭敏に嗅ぎ取る、実戦的な感覚を持った経営者が求められていることの、まさに兆候なのではないでしょうか。

○記事詳細:『オムロン次期社長に山田氏 若さ、統率力前面に』
 http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20110118000019



◆本日のコラム:

 さて、本日のコラムに参りましょう。

コミュニケーションを活性化し、社員のモチベーションを向上させ、丹念に教育・研修を施すなど「社員の活性化」を行えば業績が上がっていく、ということを言う専門家がいますが、これは事実でしょうか。

確かに業績の良い会社は社員が元気です。積極的な議論や創意工夫がなされるなど社員のコミュニケーションやモチベーションが充実しているように見えます。しかし、実際に自らの手で経営を行ってきた者から言わせてもらうと、それは現象的あるいは結果的にそう見えるだけであり、決してそのような状況を先に作ってから業績を上げていったのではありません。

何よりも強い組織となるためには、ずばり「ビジネスに勝利すること」、すなわち目の前の受注件数が増え、売上げや利益を獲得すること以外に方法はないと思います。

すなわち、成果をあげられるスタイルや活動プロセスを確立し、受注を獲得できる武器(製品・サービスなどのバリューパッケージ)を持ち、それを顧客へしっかり移転できる技術を組織のメンバーが習得し、目の前のビジネスを勝ち抜いていくことによってしか実現し得ないのです。

モチベーションやコミュニケーションはどこまでいっても手段や道具にすぎず、少なくともそれだけでは、決して活力を持った組織は持続的なものとはならないのです。

 ちなみに、われわれ企業再生や改革を生業とする者が、破たんして社員の意識がどん底状態にある企業に乗り込んだ場合、財務リストラや資産の売却など、あまり手段を選ばすに、まず何よりも利益の確保を最優先にして行動を開始します。

「後ろ向きな作業やコストダウンをやると、組織のモチベーションが下がり活力が奪われる」などともっともらしいことをいう学者や専門家がいます。

しかし、資産売却だろうが、コスト削減だろうが、ムダな脂肪を取り除いてスリム化し、ガン細胞を切除して、黒字をしっかりと確保することに成功すると、そうした取り組みに一生懸命ついてきた社員たちの顔は明るくなっていきます。多くのケースにおいて学者などがいうようなことは例外なのです。

むしろ、経営破たんの責任を取ろうとしない者へ厳しい対応を取ったり、非効率な資産を思い切って処分したり、生産性の低い業務を削減してしまうなど、ドラッカーがいうところの「体系的な廃棄」を断行するようなやり方に対しては、それを前向きにとらえる人も、確実に増えてきているように感じます。

 「ケミストリー(チームワークの相乗効果)が勝利を生み出すのではなく、勝利がケミストリーを生み出す」とは、メジャーリーグ・NYヤンキース監督時代の12年間で地区優勝10回、ワイルドカード獲得2回という実績を持つ名将ジョー・トーリ氏の言葉です(※)。

これを言い換えれば、必死で勝利を目指す過程(=実戦)で得たものでなければ、それは、決して本物のケミストリー(手段や道具)とはならない、という意味であると思います。

すなわち、トーリ氏の言葉は、あくまでも事業の本分である「ビジネスにおける勝利」を通じて組織力を高めていく、という視点を忘れてはならず、コミュニケーションを良くしたり、モチベーションを高めたりするなどの手段や手法は、あくまでも補助的なものに過ぎない、ということを示唆しているのだと思うのです。


※参照:
 『メジャーリーグ~アメリカ社会を映す鏡』NHKドキュメンタリー、2011年1月放送
 『さらばヤンキース―我が監督時代』
    ジョー・トーリ、トム・ベルデュッチ共著、2009年、貴志社



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2010年12月15日

◆製品「生き物化」の時代~「ものつくり」体制の限界を考える




※多くの製品が生き物のように頭脳を持ち、ネットワークという新しい世界につながって自律的・有機的に活動を始める.

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◆ニュース雑感

『米空軍、新聞サイトも閲覧禁止 ウィキリークス余波で』
 (2010年12月15日CNN)

 CNNによると、ウィキリークスの影響で、米空軍や米国政府機関は、自組織の職員による「ウィキリークス」のサイトや一部の報道機関のサイトへのアクセスを禁止したことを明らかにしたそうです。

国家や政府という枠組みは、イデオロギーという境界線で守られた情報で成り立っています。国家間や一般大衆の間に情報量の格差があると同時に、その枠組みが持つ問題点を合法的に白日のもとにさらす手段がない時代においては、国家による統制が保たれていました。

しかし、グローバル経済の流れがますます加速し、一般市民が、情報が持つパワー(インターネットのパワー)を皮膚感覚で理解したいま、機密漏えいのみならず、国家の枠組みや政府機関が持つ問題点に何らかの是正措置が及ぶまで、情報公開を求める動きは止まらないのではないかと思います。

何故なら、たとえウィキリークスが潰されたとしても、他の誰かが必ずそのあとを継ぐと考えるからです。

ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジ氏は、「終わりなき連鎖」というパンドラの箱を開けてしまったように思えてなりません。

◎記事詳細:
  http://www.cnn.co.jp/usa/30001232.html


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◆本日のコラム

 さて、本日のコラムに参りましょう。

 メーカーの開発体制に携わっていると、つくづく日本の製造業は「ものつくり」の体質にどっぷりと浸かっていると感じます。

ユビキタス社会、ネットワーク社会の進展で、あらゆるマシンに「頭脳=ソフトウェア」が組み込まれるようになりました。航空機、自動車、交通システム、次世代発電システム等々、製品それ自体の高機能化はもとより、ネットワーク化が急速に進展しており、機能要件は複雑化の一途を辿っています。このような状況に対して、「ものつくり」という考え方では対処しきれなくなってきている事例が目立ち始めました。

にももかかわらず、多くの日本企業は、いまだに、ものつくりの発想から脱することができずに非効率なやり方を繰り返しています。たとえば、わずかなコストダウンのためにソフトウェアの機能評価テスト工数を削ってしまい、かえって製品の信頼性を損ねたり、ハードウェアとのすり合わせによる動作テストを端折って、後工程でトラブルが多発するような状況を作ってしまったりしているのです。

 ご存じのように、製品開発コストの50~70%をソフトウェアの開発コストが占める時代です。一見すると、機体やジェットエンジンなどハードウェア部分が高価に見える最新鋭の旅客航空機(ボーイング777など)の開発も、実はソフトウェアの開発~組込みのためのコストが全体の60%近くを占めています。

ゆえに、物理的な「モノ」つくりの思想に染まった企業から見ると、ブラックボックス的に開発が進められるソフトウェアは、どうしても膨大なコストやムダの塊に見えてしまうのでしょう。部材のコストダウンと同じ発想で、開発作業工数やテストの工数を削減してしまう、あるいはソフト開発チームに必要以上のコスト圧力をかけたりしてしまうのはここら辺に理由があるようです。

 しかし、ズバリ言ってしまいますが、特に高度な機能を実現する組込みソフトウェアを単なる「モノ」や「部品」と考えていては、効率的かつ効果的な開発体制は実現しません。

なぜなら、膨大なソースコードにより発生するバグや相互干渉などの不具合を、終りが見えない中で根気よくケアし続け(※)、場合によっては製品の出荷後もアップデートを図る、といった流動的な対応が必要になるソフトウェア開発には、新種の有機体や生き物を、粘り強く、試行錯誤しながら育てるような開発スキル体系が求められるからです。

(※ある程度高度な機能を持つ製品であれば、ハード部分との整合を図る動作テストや評価作業は1000~3000回におよぶことも珍しくありません)

また、スキルセットのみならず、ソフトウェア開発機能(チームや部署などの機関)の位置づけも考えていかねばなりません。

ほとんどの日本企業においては、いわゆる、ものつくりの思想を根底にして開発プロジェクトや生産体制が組み上げられています。ゆえに、開発体制全体の管理スキルや人材育成方法、人事評価制度もそれが前提となっています。しかし、文化や仕事スタイルの異なる1つの生態系機能を存分に生かすため、それとは別に、ソフトウェア開発独自の価値基準や判断基準、人材の評価基準などを持つ機関を設置し、ものつくりの体制よりも上位か、少なくとも同等に議論できるようなポジションを与えるといった工夫も必要です。

たとえば、そうした機関を開発トップのすぐ下に置き、R&D部門に対して設計を変更させたり、いざというときに開発をストップさせたり、(ある機能をソフトウェアで実現できることが判明した場合)いったん決まったモジュールの採用を取り消したり、キリのないデバッグ作業を終わらせるために、確証的なデータがないまま、あえてGOを出すことを可能にする権限を付与したりすることを考えていかねばなりません。

また、ソフトウェアの組込みリスクを事前に減らすために、ハードウェア領域全体の受け入れ態勢をあらかじめ総合的に診断するルールとシステムをつくるなどの施策も有効になります。

もちろんこれらは「モノ」の開発力を簡略化してしまえ、ということではありません。正しい設計を行い、精巧なパーツを作ったり組み立てたり、部材を最適なQCDバランスで調達したりすることは、もはや必要最低条件に過ぎなくなってしまったということです。

 携帯電話から産業用ロボット、交通システム、医療機器に至るまで、特に社会において重要な役割を担う製品の機能はますます高度化・複雑化しています。加えてネットワーク化の進展により、自動車や住宅、建設機械など、既存の製品群にも高度な頭脳を持つことが要求され始めています。

その一番のカギを握るソフトウェアの開発思想や体制を、(わかったつもりになっているソフト開発者も含めて)改めて深く考え直すと同時に、いちはやく「ものつくり」の思想から上位移行し、「価値づくり=デリケートかつ頼もしい機能・効能づくり」に開発体制の重心を移した企業だけが、これからの熾烈な開発競争に勝ち残っていけるのだと思います。


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2010年11月08日

◆ものつくり思想の弊害~日本企業が進化・高度化できない理由




※われわれは、いまだにこの世界から卒業できていない?・・・映画『モダンタイムス』(チャーリー・チャップリン主演・監督・製作・脚本・作曲、1936年アメリカ映画)より.


                ●          ●          ●


『村上龍さんが電子書籍の新会社』
(2010年11月5日 読売新聞)

作家の村上龍さんが、電子書籍を販売する新会社を設立されました。

村上氏自身が経営に携わるのだとすれば、当面はネームバリューや当事者感覚を生かした出版活動が強みになると思います。しかし、電子書籍ビジネスには、これといった障壁が存在しないため、おそらく参入してくる企業が相次ぐと思われます。そうした状況で、村上氏には、作家の立場にとらわれないビジネスライクな意思決定ができるかが問われることになるでしょう。

また、新会社は、グリオという企画会社との合弁で作られていますが、もし村上氏の参画なしでは設立はなかったとしたら、グリオの人たちが、企画の専門家の立場から、彼に対して率直な意見を言えるかどうかも課題になると思います。

さらには、今後、電子書籍に映像や音声などの要素が入ってくることも考えられ、書籍や文筆の世界とは異なる構想力や人材ネットワークの運営が求められるかもしれません。

村上氏の名声や経験が吉と出るか凶と出るか、動向を見守りたいと思います。

○記事詳細
 http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20101105-OYT8T00539.htm


                ●          ●          ●


 さて、本日のコラムに参りましょう。

 日本では、高い収益性を確保できる高付加価値型サービスがなかなか生まれません。

たとえば、昨今の、海外における交通インフラや開発途上国における水処理・循環インフラ、ITインフラ、資産の安定運用、特許戦略など、「顧客の問題解決や成功を支援するための解決策を提供する」という重要な分野で、なかなか高付加価値型のサービス・スタイルが確立されません。

それどころか、確実に消費品質(消費する人にとって真に必要な機能が備わっている、という意味の品質)を押さえた韓国や中国のメーカーに、お家芸である家電製品や自動車の領域まで脅かされつつあります。

参考コラム:『競争は戦略の目的ではない【大前研一】』

 なぜこのようなことが起こっているのでしょうか?

 いわゆる「ものつくり」を行う製造業は、すべてのビジネスシステム(開発~生産~チャネル~販売etc...)を組み上げ、それを固定化し、モノを反復的に生産・販売します。そして市場が成熟した後は、ビジネスシステム全体の効率化やコストダウンを全社的に図っていくというのがパターンとなっています。

一方で、効能や効果を提供する高付加価値型サービスは、それを提供する者が、「インタラクションを通じて顧客と価値を共創する」ことになります。ゆえに、高度な情報収集活動や最適な意思決定など質の高い対応を、常に自律的判断に基づいて行うことが求められます。従って、そこには、効率化や自分のパターンを押し付ける、といった論理はありません。

このことを理解せずに、「ものつくり」的な経験しかない人間や事業体がサービス・マネジメントをやろうとすると、どうしても最初から、いわゆるマニュアル管理的・工業生産的なアプローチになってしまいます。

確かにマクドナルドなどの飲食サービスや事務手続き代行、単品販売などの業界においては、そのような形の“サービス”で良いのかもしれません。

しかし、これらは、本質的に工業的発想による大量生産品であり、大きな付加価値を生み出すものではありません。その多くは提供者側の論理、すなわち効率性やコストを重視した形で設計されており、そこには、個別性や例外への対応を最重要視する、といった発想はあまりありません。

(こうした姿勢は、実は「ものつくり」そのものにも影響を与えますが、今回は省略します)

翻って、顧客の成功や問題解決を支援する高度なサービス、たとえば生活インフラやITインフラなど複合的なシステムを、固有の文化を持つ主体へと融合させていくようなビジネス、あるいは個別性・例外性の高い金融・法律サービスなどの領域においては、反復・再現性を担保するだけでは、高い付加価値を提供することはできません。

もちろん高付加価値型サービスにおいても、それに従事する人材に基本的な知識を持たせるための足掛かりとして、行動規範や知識を体系化したマニュアルライクなものが必要になる場合が多くあります。

しかし、高付加価値型サービスに従事する人材は、きわめて早い段階でそれをクリアします。そして、それが本質的に求めているものや背景にある考え方を十分に理解したうえで、平常時の課題はもちろん、あらゆる例外的・緊急的なケースにおいても対応できる能力を、自らが能動的に開発していくところが大きく異なります。

そのために、マネジメントを行う人間は、何よりも彼ら彼女らの強みや個性、自立心を最大限に開花させるための支援を行います。そして多様な才能を、もっとも効果的に組み合わせることが可能となるビジネスモデルづくりに全力を注ぎます。

つまり、製造業的な活動とは、マネジメントの視点や方法が根本から異なるのです。ドラッカーが繰り返し説いていたように、真の意味で人を「資産」ととらえるための高度なマネジメントが求められるのです。

 こうした高付加価値型サービス・マネジメントの考え方や実例は、いままで日本企業にはほとんどありませんでした。

言い換えれば、製造業との違いを皮膚感覚で知る経営者や管理者がほとんどおらず、それが、顧客の問題解決や成功とは程遠い価値の提供が、いまだに、あらゆる業界で平然と行われる要因となっています。

そして、このことに(組織や産業として)気付いていないことが、日本企業が進化・高度化できないひとつの原因にもなっているのです。

 日本復活のカギは、やはりマネジメントを行う層にいる人たちにあります。まずこの人たちが、従来型の「ものつくり」の発想からいち早く脱皮し、新しいスタイルへの上位移行を目指すべきだと思います。

それが無理であれば、専門スキルを持つ人材の導入を積極的に推進し、自らの人脈や影響力を駆使して、その活動を側面から支援して欲しいと思うのです。


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2010年11月01日

◆私の組織論~本気で組織を「生き物」として育成せよ!



※むかし、「魂」がどこにあるかを特定するために人体の解剖を行った科学者がいたという。臓器や肉片を寄せ集めただけの体に魂が宿ることは決してないのに...

           ●           ●           ●

「アラン・ドロンさん吹き替え、野沢那智さん死去」
(2010年10月31日 読売新聞)

 名声優、野沢那智さんが亡くなられたそうです(享年72歳)。私の父の世代(70歳代)には、特にアラン・ドロンの吹き替えでよく知られた方です。決して声そのものだけではない、色気のある「声の表情」を駆使して、俳優や映画自体の魅力を増幅させることができる、稀有な才能をお持ちの方でした。

声優のギャラが法外に安い時代、孤独なドロンの役作りを行うために、収録の3日前から人に会わない、声の訓練のために膨大な数のクラシック曲を、楽器のパートを含めて真似るように丸ごと歌う、などの努力を継続されていたそうです。色々な意味で、映画界はかけがえのない人材を失ってしまったということになるでしょう。

心よりご冥福をお祈りしたいと思います。

○詳細記事
 http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/news/20101030-OYT1T00608.htm?from=os4

           ●           ●           ●

 さて、本日のコラムに参りましょう。

 「組織は生き物だ」という人が多い割には、それを具体的に創造したり整備したりする理論がまったくありません。

事業活動を本当にダイナミックに行いたいのであれば、まず組織を、パーツから構成される機械的システム論ではなく、まさに、有機的・自律的に動く「生き物」としてとらえなおす必要があります。

すなわち、組織を構成する要素機能(戦略、マーケティング、営業、生産、R&D、物流など)を、「個別のシステムとして設計する」のではなく、要素機能どうしの整合性や全体の連関性、一体感、調和を最優先にしながら創り上げていかなければなりません。

 実はこの考え方に、いきいきとした組織づくりを成功させるカギが潜んでいます。

 経営学やビジネススクールでは、いまだに事業体を構成する機能をバラバラに学びます。また、これに拍車をかけるように、ある現象や事象を、同様にバラバラにして考えるロジカルシンキング(要素還元法)や、○○システム論、△△工学など機械論的な手法・技法を修得します。

しかし、賢明な企業家やリーダーは、こうしたものに、少なくとも盲目的に飛びつくことはありません。まず、ある事業をやろうとするとき、その仕組みやプロセスについては、最低限の行動規範や判断基準、品質・コスト基準、必要設備などを設置するにとどめます。そして何よりも、目標をはっきりと打ち出し、「成果を出そう!」と皆を叱咤激励します。

さらに、さまざまなチャレンジや創意工夫を奨励し、成果に向けて皆の思考・行動スタイルがひとつの方向に、自律的に揃っていくようにマネジメントを行います。そして、試行錯誤の中から適材適所を見出し、自社に最も適している事業活動の流れや業務プロセス、ノウハウなどを(迅速に)明確にしていきます。

 ちなみに、コンフリクト、という言葉がありますが、これは人間ばかりではなく、各機能どうし、あるいは機能を構成する細かい業務プロセスどうしにも発生するという事実をご存知でしょうか?

これを、たとえば、「人体構造学(医学)の本を複数の医師で共同執筆する」という作業で考えてみましょう。

担当する各章の領域、例えば脳、胃腸、肺、骨格、皮膚それぞれの仕組みや治療法を研究すればするほど、ひとりの医師が使う各領域の研究時間に、相互にトレードオフが働き、自分の専門の臓器以外の知識には疎くなっていきます。

また、どの臓器も細胞や毛細血管、粘膜などで組成されていますが、それらについての全員の理解が100%同じとは限らず、細部のパーツになればなるほど解釈にズレが出てくる可能性が高くなります。治療法についても、自分の領域を優先するあまり、他の臓器に悪影響を与えかねない方法を書いたりするかもしれません。

さらには、全体の不整合や重複を解消させようとする監修者や編纂者の管理・調整コストが多大なものとなってしまうことは、容易に想像がつくでしょう。

 このことからもわかるように、「機能やパーツ先にありき」の発想で組織や事業活動を設計しようとすればするほど、必ずコンフリクトやトレードオフが発生し、組織という生き物を弱らせます。

安易に専門コンサルタントなどを導入しようとする経営者には、この事実をしっかりと認識してほしいと思います。同時に、夢やビジョンを目指す力とそれを支えようとする従業員をもっと信じて、事業活動に邁進していただきたいと思うのです。


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2010年10月25日

◆スモール企業の経営者は最強の顧客コンサルタントを目指せ!




※少なくとも自社の製品・サービスが影響を与える範囲に関しては、顧客の事業や活動が最も生産的になるようなアドバイスができるようになろう.

                 ●          ●          ●

「仁川空港に挑戦状」、羽田空港の国際化に韓国でも危機感高まる
 (10月24日サーチナニュース)

 国際的なハブ空港を目指してリニューアルされた羽田空港がオープンしました。近隣となる韓国の仁川空港関係者は、ライバルのこの動きを、危機感を持って見ているようです。ただし、まだまだ仁川空港のハブとしての機能には及びません。

羽田の関係者は、これを単にハブ空港どうしの競争と位置づけて同じ土俵に上がるのではなく、あくまでも利用者や交通各社の利便性の視点に立ち、「トータルなシステム」で戦って欲しいと思います。

すなわち、京急や東京モノレールなどの首都圏の交通機関はもとより、羽田からつながる地方の空港や各種交通機関、観光地などとも連携して、「列島規模の移動・観光システム」としての魅力と経済性で戦うことを目指して欲しいと思うのです。


                 ●          ●          ●


 さて、本日のコラムに参りましょう。

 ドラッカー理論における原則の一つに「問題の解決に資源を投入するのではなく、機会にフォーカスして資源を投入し、拡大せよ」というのがあります。

これを経営者やマネージャーの仕事に置き換えると、「日々のオペレーションよりも、機会の拡大に時間(資源)を使え」ということになります。

・・・きわめてまっとうな意見といえるでしょう。しかし、こんな正論をいうと、すぐさま「そんな機会があったら、とうの昔に取り組んでいる!」となどといった声が返ってきそうです。

でもちょっと待ってください。ほぼすべての会社に必ず持っている機会があります。

それは、(当たり前のことですが)自社には製品・サービスという資産がすでにあること、およびそれをすでに購入している顧客があり、彼らと接触・交渉した経験を持っているということです。

中小企業の経営者やベンチャー起業家は、多くの製品系列を持つ大企業の社長と違って、自社の製品・サービスについては誰よりも熟知しているはずです。また、それを購入している顧客についても、深く理解しているか、または少なくとも一定の知識は持っているはずです。

この「すでにある資産」を最大限に活用することを考えます。すなわち専門家である経営者自身が、その導入に関して、最も的確なアドバイスができる顧客コンサルタントへと上位移行するのです。

ただ、コンサルタント、といっても、プロのような能力をカバーする必要はありません。まずは、「自社の製品・サービスを最も効果的、生産的、低リスクの形で使ってもらえる方法」に集中して知識やノウハウを開発していけばよいのです。

そのためには、以下の三つの視点による、新たな知識やノウハウの開発が必要です。


◆1つ目は、顧客の活動や事業プロセスなどを全体的・体系的に見渡し、そこに組み込まれる構成要素として、自社の製品・サービスをとらえ直します。すなわち製品・サービスの再定義を行い、それをもとに新たなポテンシャルを見出していきます。

◆2つ目は、顧客は本質的に何を購入しているかを理解することです。つまり、製品・サービスそれ自体ではなく、そこから得られる効能や効果を購入している、ととらえ直し、新しいPR方法や用途に関する知識・ノウハウの開発余地を見つけます。

◆3つ目は、最終消費の形態や用途、場面(これを消費品質といいます)を詳細に把握することです。これにより顧客のニーズ体系への組み込み方法や、さらに改善を施したスペックを提案できる可能性を探ります。


これら3つの視点に、前述の「効果的、生産的、リスク低減的」という軸を掛け合わせ、「ナレッジ・マトリックス」を作成するなどして体系的かつ網羅的に知識を整理します。これにより、顧客ニーズの詳細な識別が可能になるゆえ、顧客に対するより的確なアドバイスや説得が可能になります。

 こうしたコンサルティング機能の開発により、大きな投資をすることなく、現在の顧客関係を強化できると同時に、新たな顧客セグメントに水平展開することが可能になります。

もちろん、コンサルティング活動で得た情報が、製品・サービスの改良やイノベーションのための重要なヒントにもなることは言うまでもありません。

 ドラッカーが主張するように、「過去を維持するための仕事」が「明日のための取り組み」に優先するようではいけません。ニーズがますます高度化・複雑化する中で、大胆に仕事の配分を組み替え、得意な領域に集中して戦う方法を、これまでにもまして真剣に考えていくべきでしょう。

 「製品・サービスおよび顧客への販売経験」という有効な資産をフルに活用するために、まずは経営者自身が最強の顧客コンサルタントをめざすことを強く推奨したいと思います。



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2010年10月18日

◆実務家のための戦略とは?・・・もっとシンプルに考えよう




※ビジョンや志なき戦略は決して持続しない。あなたの会社は、そしてあなた自身は、自らの存在意義や本当にやりたいこと、実現したいことを深く真剣に考えたことがあるだろうか。


          ●             ●             ●


 『マツダ 自立の道険しく…フォード、株式売却へ』 10/17(日) 読売新聞

 広島の自動車会社マツダが、90年代に、当時の住友銀行に半ば強制される形で傘下に入ったフォードとの資本関係をさらに薄め、距離を置く方向に傾いているそうです。

同社の、かつてのロータリーエンジンや近年の水素エンジンなど、既存型エンジンを向上させる技術には一定の評価が与えられています。しかし、肝心のEVへの対応が大きく出遅れています。

つまり、強みを生かそうとした場合、基本的に新興国市場への展開しか道は残されておらず、現在の中途半端な事業規模では、再び他の資本との提携を模索せざるを得ないということだと思います。

このことは、結局、価値を創出しての収益確保の力(自力経営力)は、90年代にフォードに買収されたときからあまり向上してないことを意味するのではないでしょうか。

独自性を追求するのは結構なことです。しかし、世の中における自動車の位置付けは明らかに変わりつつあります。こうした流れを敏感に感じ取り、社会に貢献できる価値は(提供するタイミングを含めて)どうあるべきかを本気で考えられる組織体質へと変わらないかぎり、今後もマツダの迷走は続くのではないでしょうか。


*******

 さて、きょうは、実務家にとっての戦略理論はどうあるべきかを綴ってみたいと思います。

 戦略にはさまざまな定義があります。例えば、資源戦略論で高名なジェイ.B.バーニーは「書かれた本の数だけ戦略の定義が存在する」(※1)と言っています。

いくつか有名なものをピックアップしてみましょう。



◆ジェイ.B.バーニー
 「戦略とは、競争に成功するためにその企業が持つセオリーである」

◆A.チャンドラー
 「戦略とは、企業の基本的な長期目的を決定し、これらの諸目的を遂行するために必要な行動の方向を決定すること、そのために必要な諸資源を割り当てること」

◆マイケル.E.ポーター
 「戦略とは、企業の独自ポジションを決定し、それを伝達すること、トレードオフを作ること、および活動間の調和を図ることである」



人によってずい分と違うようですね(笑)。

しかし、われわれ実務家は、定義の正確さを競ってもあまり意味がありません。それによく見てみると、現在の状態から脱して何かを目指そうとしている、といったニュアンスは、どの定義にも共通しているようです。

...いきなり独断を承知で言ってしまいます。

つまるところ戦略の定義とは、「現状から目指すべき姿や夢に到達するための、自社にとって最も適切な道のり・方法」としておくのが一番わかりやすいのではないでしょうか(図-1)。


●図-1



ただ、世の中そう甘くはありませんよね。上記のようにシンプルに考えるだけですっきりと夢が実現すれば良いのですが、それを邪魔(?)する人たちや、思いもかけない環境の変化が襲いかかります。おまけに顧客(市場)は、浮気症の傾向がますます強くなっています(図-2)。


●図-2


だから、自社を取り巻く環境を合理的にカバーした「フレームワーク(戦略理論)」を通して経営環境をウォッチングしながら、夢の実現を目指していきましょう、ということになるのです。

しかし、ここで注意が必要になります。

理論やフレームワークは道具にすぎません。使いこなすには、「何のために戦略を立てるのか」「目的は何か」がはっきりしていないと、道具自体を使うことが目的化してしまいます。

やはり、あくまでも中心になければならないのは、目指すべき姿=ビジョンに到達する、という強い志(こころざし)であり、そのために最も適切な道のりをどう考えていくか、という視点です。理論やフレームワークを使用するにしても、ビジョンや夢を実現するために活用する、という姿勢を忘れてはならないと思います。

これを言い換えると、多くの競争戦略論が推奨するような、競合他社に勝つことを目的とした分析などは二義的なものであるということです。

仮に競合分析をするにしても、自らを正すために他者の動きにも学ぶ、といった姿勢で取り組まないと、過度なコスト競争や使いもしない機能の追加レース、といった消耗戦に首を突っ込んでいくことになりかねません。

 私なりの結論を申し上げましょう。

まず、しっかりとした目的(夢やビジョン)を持つこと。そして、目的の実現のために、自社がどのような価値を提供できるかを、顧客のビジネスや生活スタイルを体系的に把握し、その中にどっぷりと身を浸すつもりで考えること。

そのうえで、その価値を市場に届けるための最適な道筋・方法を、虚心坦懐な姿勢をもって探求し続ける、といったわかりやすい戦略を持つことが大切です。

結局のところ、資源に制約がある多くの企業にとって、こうしたシンプルな考え方が経営資源の集中を可能にし、骨太な戦略を持つ可能性を高める最も現実的な方法であると思います。



※1:『企業戦略論・上巻』ジェイ.B.バーニー、ダイヤモンド社 2003年



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2010年09月24日

◆戦略実務の素人に人気?ポーター理論の問題点を考える-2




※競争戦略論の発表直後に自らのコンサルティング会社を興し、巨万の富を築いたハーバード大学ビジネススクールの"スーパースター"、マイケル・E・ポーター教授。しかし、シカゴトリビューン紙記者のオシーア、マディガンの著書『ザ・コンサルティングファーム』によると、その成果には大きな疑問が残る、といった旨の報告がなされている。


                     ●            ●            ●


 1980年前後の発表ながら、いまでも非常に人気の高い戦略理論、それがマイケル・ポーターの「競争の戦略」「競争優位の戦略」です。以下、これらの理論に潜在する問題点を、特に実務者の観点から指摘していきたいと思います。

ポーターの戦略理論は、大きく、以下の3つの問題点を抱えていると考えられます。

---------------------------------------------------------------------------------
①時間軸やそれに伴う諸条件の変化(ダイナミズム)という概念が考慮されていない。

→ ポーター理論の根底には、「相対的に優位なポジションをどう見つけ、自らの事業をそこにどうやって位置付けるかですべてか決まる」という考え方がある。ゆえに、自社の位置付けがわかる業界構造(地図)が明確に特定できること、さらには戦略を成就させるために、一定期間、その業界構造が続くことが前提となっているが、これは現実的にはあり得ない。

---------------------------------------------------------------------------------
②企業間連携や合従連衡、そして企業優位性のソフト化が進展した昨今の近代経営においては、「5フォース」「バリューチェーン」といった単純なフレームワークで分析することは困難であるばかりか、リスクさえ伴う。

→ 現代の事業環境は、提携や共同開発、ライセンス契約などが複雑に絡んでおり、例えば「競合」や「供給業者」、果ては「顧客」までもが簡単には特定できない。例えば、競合が、ある事業領域においては技術やパテントの供給元となったり、B2Bなどでは顧客が自社の得意分野に一部参入したりするのは珍しいことではなくなってきている。

→ インタンジブル(ソフト)な競争優位性をバリューチェーンなどの可視化手法で特定するのは容易ではない。また、競合相手ごとに優位性が異なるゆえ、バリューチェーンによる普遍的な優位性を断定するのは困難である。

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③自社事業に関連する周囲の関係者を敵対関係あるいは優位性を行使する対象とみなし、スイッチングコストやロックインといった考え方で対峙していく考え方は問題がある。顧客との価値共創、企業間連携やネットワーク化といった「ともに価値を創り上げる姿勢」が重要な戦略手法となっている現代においては、むしろマイナスに働きかねない理論である。

→ 「周囲の存在すべてを競争または駆け引きの相手」とみなし、全社で活動をはじめると、過度なコスト削減の強要や顧客ロックインなど近視眼的な行動が多発する可能性が高くなる。

→ 「分析結果が正しくすべてである」という中央集権的な経営が行われてしまうと、チャレンジ精神や創意工夫は影をひそめ、石橋をたたいて渡るような行動が蔓延し始める。当然のことながら、現場の臨機応変な判断力なども衰えてくる。



 一般的に、ポーター理論に対しては、①、②が批判の対象となるようです。しかし、経営者や実務者は、むしろ③で想定されるような悪しき行動スタイルがガン細胞のように組織をむしばむことの方に危険を感じると思います。ひとたびこうした体質が浸透すると、組織の考える力が低下し、何事にも消極的になってしまう。また、これを改善するには数年のリハビリ期間が必要になってしまいます。

にもかかわらず、このあたりに想像が及んでいないポーター理論は、(特に21世紀のソフト化社会においては)まさに「机上の理論」であると言わざるを得ません。

 最後に、なぜポーター理論が(経営学の世界における)戦略理論の最高峰とされてきたのか、なぜ多くの人たちから支持を得ることができたのかについても簡単に触れておきたいと思います。

いくつか要因がありますが、顕著な理由として、理論全般にわたって分析技法がマニュアル的に記述されており、なおかつフレームワークなどが視覚的にわかりやすいという点がまずあげられます。

言い換えると、豊富な実務経験からくる洞察や想像力を要求する内容ではないゆえ、戦略レベルの意思決定に関与したことがない人たち、すなわち学者や学生、若手サラリーマンなどを「わかったつもり」にさせやすいという面があるのです(※1)


 企業が存続するための方法は、決して競争に勝つことだけではありません。競争は(できるかぎり回避すべき)一手段に過ぎず、決して目的とはなりません。むしろ、長期にわたり存続してきた企業は、不必要な争いは避け、社会という生態系への融和を必死に模索することで発展・成長してきたのです。

しかし、周囲のすべてを駆け引きの相手とみなし、圧力を行使することで優位性を保とうとするポーターの思想は、これを否定するものと考えざるを得ません。現代のネットワーク社会や共生社会、ソフト化社会においては、むしろ「時代への逆行を誘引する考え方」であると言わざるを得ないのです。

 われわれ実務者は、このようなあまり現実的ではない理論にとらわれることなく、あくまでも、価値を創造することで社会や顧客に貢献していく、といった姿勢を第一義に持たなければなりません。

すなわち、社会・顧客への貢献を実現できる製品・サービスづくりや体制づくりを目指す文脈において、市場や顧客、同業他社、取引業者などの考え方や動向に謙虚に学ぶことで自らを磨きあげる(=結果として市場優位性を築き上げる)といった道のりを歩んでいくべきなのです。



***
※1: 三菱総研主席研究員の武藤泰明氏は、ポーター理論は「コピー&ペイスト」しやすく、それゆえ「戦略実務の素人に人気を得やすい理論」としています。また、昨年12月に『ドラッカー生誕100周年記念講演会』で私と講演の機会をともにしたローランドベルガー会長・早稲田大学院の教授、遠藤功氏は、同講演の中で「ポーター理論からは、本当の経営も戦略も学べない」と述べられています。


※情報ソース:
 本コラムの論理展開の根拠となる情報のかなりの部分が、私のコンサルティング業界の人脈を通じて得た、ポーター理論を試したり導入コンサルティングを受けたりした企業の実例に依拠しています。


※主な参照文献:

◇Porter, M.E., Competitive Strategy, The Free Press, 1980
   (マイケル・E・ポーター、土岐坤・服部照夫・中辻万治訳『競争の戦略』、ダイヤモンド社、1980 年)
◇Porter, M. E., Competitive Advantage, The Free Press, 1985.
   (マイケル・E・ポーター、土岐坤訳『競争優位の戦略』、ダイヤモンド社、1985 年)
◇Kenichi Ohmae, The Mind Of The Strategist: The Art of Japanese Business, McGraw-Hill, 1991
   (大前研一『ストラテジック・マインド』プレジデント社、1984年)
◇James O'Shea, Charles Madigan, Dangerous Company: The Consulting Powerhouses and the Businesses They Save and Ruin
   (オシーア、マディガン 『ザ・コンサルティングファーム―企業との危険な関係 』1998年、日経BP)

◇大前研一 『競争は戦略の目的ではない』ダイヤモンド社ハーバードビジネスレビュー、2007年2月号
◇ヘンリー・ミンツバーグ 『H.ミンツバーグ経営論』ダイヤモンド社、2007年
◇武藤泰明 『ほんとうにわかる経営戦略』PHP出版、2003年
◇御立尚資 『戦略「脳」を鍛える』東洋経済新報社、2003年



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2010年09月01日

◆事業進化のための「バリュー・パッケージング戦略」を提唱する




※写真は、広島市内を走るシーメンス社・デュワグ社(独)、アルナ社(日本)共同製造の路面電車「グリーンムーバー5000」(広島電鉄所有)。

 ドイツのシーメンス社は、交通生態系に必要な信号機や制御システム、軌道・架線システムなどのハード、およびこれらを運用・管理するノウハウ・スキルなどのソフトを他の企業とも連携しながらパッケージングし、ワンセットで提供している。
 同社は、このアプローチにより、海外企業の採用がきわめて困難とされる日本の公共交通の分野で多くの導入実績を持つ。
(他の実績としては、JR東日本の常磐線・長野新幹線などもあります)



     ●               ●               ●



■事業進化の実戦的な方法としての「バリュー・パッケージング戦略」

 事業における「進化」とは、ターゲットとする市場、つまり環境の変化に合わせる、またはその変化を先読みする形で、事業体系を高度化させていくことです。

これを実現するための実戦的かつ具体的な方法として、弊社(ジェイ・ティー・マネジメント田中事務所)では、既存事業の周辺に埋没している利益領域(プロフィット・ゾーン)群を掘り起こし、顧客への経済的インパクトなどを基準に体系化していく「バリュー・パッケージング戦略」をいくつかの会社で推進しています。



■車両製造業の事例:

これを、列車車両の製造業で説明してみましょう。

運行密度が高まり、運行ダイヤがますます複雑になる現代において、鉄道会社は、最も効率的かつ効果的にお客さまの移動を支援するための「生態系」、および安全・快適運行という「効能や効果」を社会へ提供しているという趣が強くなります。

鉄道運輸サービスの生態系は、車両の運行はもちろん、軌道敷設・管理体制や動力システム運用スキル、電力供給システムや安全運行管理システム、各設備のメンテナンス、人材の安全教育など、ハードとソフトの要素が整合性をもって体系化され、好循環することではじめて機能します。

したがって、顧客にとって大きな価値を提供できるパートナーであり続けようとするなら、顧客が得る「効能」に焦点を当て、車両のみならず、ハード、ソフトからなる自社の価値体系を、できるだけ顧客の価値体系に合致させる形で再構築し、事業を進化させていかなければなりません。

(バリューの中核となる車両も、軽量化や走行性能などを強化していかねばなりません。しかし成熟しつつある事業においては、通常これらは特別な優位性とはならず、どちらかというと「必要条件」的な意味合いが強くなります)


 もちろん、この戦略は簡単ではありません。特にこのようなB2Bビジネスの場合、顧客側も自社のニーズ体系を明確に把握しているわけではなく、消費財などと違ってお手本となる商品やサービスがあるわけではありません。

ゆえに、組織の知力をふりしぼり、顧客との対話を通じて顧客側の価値体系を的確に発掘・可視化しなければならないのです。



■その構築方法とは?

 端的な方法としては、高度な診断・ソリューション設計能力を持ったコンサルティング部隊を形成し、彼らが顧客と接触することによって得た情報や、協業者ネットワークから得た情報をもとに、顧客に対する経済性やリスク低減の貢献レベルなどを算定しながら、価値体系の再設計・パッケージングを行う、といった方法が有効となります。

(もちろんこれは、自社単独で構築できないケースもあるので、企業間の連携・ネットワーク化が必要になる場合もあります)


 なお、特にこの類のB2Bビジネスにおいては、だいたいの場合、前例のないものを提供することになります。ゆえに、うまくやると、顧客への付加価値(利益率)が高くなり、長期的に安定した収益の源泉ともなります。

また、もともと「土地勘」がある領域を基盤にしながら周辺領域へと進出を図ることになるため、慣れてくると、意外にも、価値体系の設計スピードや洗練度合いも早くなります。さらに、新規事業などに比べてリスクも低減されます。


■成功確率は一概には言えないが・・・知力を尽くすことがポイント:

 ちなみに、私の感触では、この戦略の成功率は、あえて平均値を言うと、20%~30%といったところでしょうか。ただし、事業経験が長く、特長や差別性を持っていればいるほど、顧客セグメントやパートナー企業からの信頼がすでにあり、営業や交渉、連携もしやすくなるので、必然的に成功率は高くなります。

 自社を一段と進化させる手法でありながら、新規事業などの「飛び地戦略」とは異なり、知力を尽くしさえすれば、リスクを押さえながら事業を進化させる有効な方法となり得る方法、それが、ビジネス生態系に基づく「バリュー・パッケージング戦略」なのです。



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2010年05月11日

◆ポーター教授の分厚い戦略本を読みやすくする方法




               ※マイケル・ポーター教授(左上)とその代表的著作である「競争の戦略」、
                「競争優位の戦略」。日本語訳が洗練されていないこともあって、
                この和訳本2冊を完全に理解している人はごく少数ともいわれる。



 先週、ある情報通信サービス企業の経営企画部門のメンバーの方々から、ハーバード・ビジネススクール:マイケル・ポーター教授の2大書籍である「競争の戦略」「競争優位の戦略」についての読み方をたずねられた。

この人たちがいうには、同書を「何年も前に購入したのだが、いまだに読了できていない」ということであった。旧い著作であり翻訳がこなれていないこともあるのだろう。私の周囲にもこうした“悩み”(?)を抱えている人が散見されるので、これについてちょっとした工夫を述べてみたい。

 ちなみにこの方法は、約20年前、私が社会人としてスタートした頃に試みて、一定の成果を得ることができたものである。当時、20代前半くらいだった私は、この本の内容についてはチンプンカンプンであった。

しかし、ポーターの著書の特徴を逆手に取り、ちょっとした工夫を加えた結果、1ヶ月後くらいには、ポーター理論を(何とか)体系的に説明できるようになったので、かなりの人に適用が可能であると思う。


 さて、ポーター教授の一連の書籍は、彼の主張する複雑な戦略分析体系をすべて網羅するものであり、一大マニュアルの様相を呈している。しかし、箇条書きや図表が多用されるマニュアルと違って、ほぼすべての要素や項目がのっぺりとした文章で記述されているため、各要素・項目の境目が一見してわかりにくく、視覚的・直感的にとらえにくいものとなっている。

また、マニュアルと違い、階層構造の目安となる番号が、大雑把にパートⅠ~Ⅲと、1~16までの章番号がふってあるだけという、きわめて不親切なものとなっているため、一体自分がどの部分にいるのかがわからなくなってしまう。

そこで、“マニュアル”としての構造が鮮明になるように、これらの要素・項目(文章のかたまり)の内容をわかりやすくしたり、番号付けによる階層構造化を自分でやってしまうのである。

以下、作業の具体的な説明を行う。


----------------------------------------------------------------------
作業その1.要素・項目(文章のかたまり)のテーマ部分と説明文を視覚的に分ける
----------------------------------------------------------------------

 具体的なやり方はカンタンである。まずは、黄色マーカーと赤のボールペンを用意する。

 たとえば以下のような、分析の視点を述べた文章があったとする。・・・見るだけでウンザリするかもしれないが、とりあえずガマンして目を通して欲しい。


※書籍名と使用部分:「競争の戦略」(昭和62年第16版)81頁
 「3 競争業者分析のフレームワーク 多角化企業の本社部門と個別事業部門の目標」より。

1 その企業全体の現在の業績(売上成長率、投資収益率など)はどうか。このデータから、企業全体の目標をさぐる手がかりが得られる。そして、そこから、当面の競争相手である事業部門のマーケット・シェアの目標、価格決定方針、新製品発売意欲といったものが推測できる。その事業部門の業績が企業全体の業績よりも低い場合は、たいてい新製品発売の意欲が強いものである。企業全体の業績に安定した貢献をつづけている事業部門は、その実績を危険にさらすような思いきった行動をとる可能性は低い。

(2~7は省略)

8 企業内の他の部門と業績とニーズから考えて、企業としてはその事業部門にどれだけの売上目標、投資収益率目標を与えているか、また資金面ではどんな制約条件を課しているか。業績や与えられた目標から判断して、他の部門よりも多くの企業内資金の配分を受けられるだろうか。その事業部門は、本社の関心を引き、支援を受けられるだけの規模を現実にもっているのか、あるいは将来そうなる力を秘めているのか。そうではなくて、本社からは無視され、経営上の優先順位が低いままにすえ置かれるのだろうか。その企業の他の部門はどの程度の投資を必要としているか。


・・・万事がこうした調子による記述なので、このたぐいの理論書を読み慣れていない人には正直キツイと思う。しかし、以下の2つのことをやるだけで格段に理解がすすむ。


【その1】
 その段落(文章のかたまり)の要約あるいはテーマとなる「文章(主に短文)」を黄色でマークする。この2冊の場合、短文が階層構造の上位概念(要約・テーマ)になっていることが多いので、ここをくっきりと、わかりやすい形で見える形し、説明文と区別できるようにすることで、読みにくさがかなり解消される。

●黄色マーカー部分

  1 その企業全体の現在の業績(売上成長率、投資収益率など)はどうか。

  8 企業内の他の部門と業績とニーズから考えて、企業としてはその事業部門にどれだけの
    売上目標、投資収益率目標を与えているか、また資金面ではどんな制約条件を課しているか。



【その2】
 次に、要約・テーマを説明している「文章のかたまり」を赤ペンで、BOXのように四角いワクで囲んでしまい、これも視覚的に浮き上がるようにする。

●赤ペンでBOXのように囲む部分(黄色マーカー以外の残りの部分)

 このデータから、企業全体の目標をさぐる手がかりが得られる。そして、そこから、当面の競争相手である事業部門のマーケット・シェアの目標、価格決定方針、新製品発売意欲といったものが推測できる。その事業部門の業績が企業全体の業績よりも低い場合は、たいてい新製品発売の意欲が強いものである。企業全体の業績に安定した貢献をつづけている事業部門は、その実績を危険にさらすような思いきった行動をとる可能性は低い。(1)


 業績や与えられた目標から判断して、他の部門よりも多くの企業内資金の配分を受けられるだろうか。その事業部門は、本社の関心を引き、支援を受けられるだけの規模を現実にもっているのか、あるいは将来そうなる力を秘めているのか。そうではなくて、本社からは無視され、経営上の優先順位が低いままにすえ置かれるのだろうか。その企業の他の部門はどの程度の投資を必要としているか。(8)



------------------------------------------------------------
作業その2.番号をふり、階層構造をわかりやすくする
------------------------------------------------------------

 前述したとおり、ポーターの著書は、細かな分析や診断項目がたくさんあるにもかかわらず、ざっくりと2階層のみ大きな番号がふられているだけである。476ページの分厚い本にもかかわらず、パートⅠ~Ⅲまでと1~16までの章番号の合計19個のみ、というかなりムチャな(?)ものとなっている。

よって、各章を構成する文章のかたまり(主としてこれも分析・診断項目である場合が多い)に自分で番号をふり、わかりやすくするのである。

ただし、すべてに階層構造を表す番号をふるのは大変な労力を必要とする。ゆえに、前述の2階層に加えて、新たに1階層程度を加えるつもりで、「1-(1)」「1-(2)」のように、各章をさらに1階層ぶんだけ細分化する番号を付けるのみでよいと思う。残りの部分については、詳しく理解したい部分のみ、適宜細分化する(「1-(1)-①」など)、といったやり方をとる。



 以上で作業は終わりである。たったこれだけだが、格段にわかりやすくなること請け合いである。


ちなみに、1の作業のポイントは、視覚効果と直感的にとらえる形を最優先するために、必ず色分けすること。それも、マーカーとボールペンのように違った視覚効果をもたらすものを使いわける。(これをケチったり端折ったりしては絶対にいけない!)。

また、前者のマーキングの適用が効果的な部分は、主に各種分析・診断項目である。その量は全体の30%くらいだろうか。ただし「業界の構造分析法」「競争業者分析のフレームワーク」など重要な部分に集中しているので、たとえこれだけでもきちんと内容を把握できると、かならず他の部分もそれに引っ張られて理解がすすむ。

新たに番号をふり、階層構造を明確化する作業では、当然のことながら全体の構成をみきわめながら作業をすることになるので、ポーター理論の体系についての理解が自然と深まっていく。

何よりも、これをやるプロセスで集中して内容を確認することになるので、その時点で理論がスッと頭に入ってくる。「読もう」「理解しよう」とすると、力が入り、字ズラを追うことに意識がいきがちになるが、「チェックしてやろう」といったナナメの姿勢であたると、冷静な思考が働き、“脳の力が抜け”るのである。

 できるところだけで構わないので、だまされたと思ってぜひトライしてみて欲しい。


 ちなみに、ポーターの本を読破するためのハウツー本や解説本のようなものがあるが、理論のとらえ方が表層的であったり、理論とフレームワークを混同していたり、用いられている事例が適切ではなかったりするため、あまりおすすめできない。

 また、ポーター理論そのものに対しては、私は、特に「昨今の変化の激しい経営環境下では、事実上、使用不可能である」「実務面でのリスクを考慮していない」などの理由から、その効能については懐疑的な立場であることをお断りしておきたい。

なお、これについては、別のコラムで述べているので参考にしていただきたいと思う。



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2010年05月07日

◆あと講釈理論の典型?ハメル&プラハラードの未来競争戦略理論

         


           ※コア・コンピタンスの構築でバラ色の未来が待っている?ハメル&プラハラードの両教授。
             ハメル氏(右)は、米国市場2番目となる巨額負債倒産、不正会計事件を引き起こした、あの
             「エンロン社」を、新時代の代表格でありイノベーションの才に富んだ企業とほめそやしていた
             ことでも知られる。


 日本企業に対する考察を中心としたこの理論の骨子は、最終製品や基幹製品を生み出すコア・コンピタンスを重視し、未来に向けてその能力を鍛えよ、というものである。未来をできるだけ予測し、きたるべきその市場で勝負するために、ストレッチした目標を掲げ、目標の達成方法にレバレッジを効かせよ、と説く。つまり、未来予測が前提となっており、予測によって設定された市場や経営環境に向けて長期的なスパンで自らの能力に磨きをかけるべき、というのがこの理論の骨子である。

ハメル&プラハラードによれば、たとえばソニーの小型化の技術など、その企業の得意技がコア・コンピタンスにあたるという。これは、その企業の製品やサービス、あるいは生産プロセス等に一貫して現れる、組織としての特徴的な(得意とする)能力のことを指しているようである。

確かに各企業の癖や傾向、得意技のようなものはあり、それが当該企業の強みや差別化要因となるのは事実である。しかしそれらは意識的、自律的、戦略的に作り上げられたものというよりは、自然に積み重ねられたものである色合いが強い。

すなわちPDCAサイクルを長期的に回転させて改善活動を積み上げ、失敗を積み重ねながら思考錯誤を経た結果として表出している現象であるといってよい。別言すれば、ある明確な意図や方向性をもって、洗練された形で構築された能力とは似て非なるものである。

つまりは、短期的改善の積み重ねの結果である特徴・得意技を現象追従的に観察し、「コア・コンピタンス戦略」というラベルを貼った、あと講釈的な匂いが残る理論であるといえる。

その証左の1つとして、コア・コンピタンスを構成する原単位や組成方法、構造分析方法、戦略への落し込み方法などについてはほとんど触れられていない。いわば、城を築くのに、その土台を築く原単位となる素材を何にするのか、柱にはどのような材料を用いるのか、そして、どのような手順で築城するのかといった基本的な理論要件が明確ではないのである。


 さらに、予測した未来をめざすためのストレッチやレバレッジなどの方法論が展開されていくが、肝心の未来予測の具体的な方法が「多くの時間を投入して考えるべき」以外にこれといって述べられていない。

もちろん、未来を予測する方法を提示せよ、とまで求めるべきではない。しかし、「コア・コンピタンス構築の指針となるべき未来市場を描くための情報を早期に察知・感知する程度の方法については言及があって然るべきである。しかし、残念ながらこれが見当たらないのだ。

しかし、これはある意味で、妥当ともいえる。「予測」については、多くのシンクタンクや調査機関によるものが毎年発表されるが、長期はおろか半年後でさえ現実には予測できないのである。よって、未来予測を基盤とするハメル・プラハラード理論の成立はますます困難になってきたと考えざるを得ない。


 ちなみに「予測」レベルまで到達できるかは別として、インサイトや先の見通し、あるいは嗅覚のような能力を強化する方法は存在する。それは、しっかりとした仮説を構築し、それを自分の「型紙」にして経営環境との接触をはかりながら、それとの(微妙な)ズレに対する早期感知・発見能力を鍛えていくことである。

例えて言えば、植物の相を識別できる植物学者が、草が生い茂った草原の中からまったく新種の萌芽を発見するような能力である。このような能力を可能にするのが、とりわけ学習効果が高い「実戦」を数多くこなし、チャレンジを積み重ね「痛い目」や「失敗」に遭うことで(組織としての)鋭敏さや洞察力を磨くことである(別コラム「最後のフロンティア、「失敗」を戦略資源として活かせ!」を参照)。


 未来の製品・サービスや市場の想像図を描くことが先にあるのではない。少なくとも、両教授がいうようなSBUうんぬんといった組織形態論(ハードウェア論)を議論するだけでは十分ではない。何よりもまず、未来に向かってあくなきチャレンジを積み重ね、進化し続けることを志向する組織体質や人材集団の養成・熟成が必要である。

そして、チャレンジ(実験行動)の体系的な積み重ねによって、研ぎ澄まされた組織感覚の獲得をめざす。こうした取り組みを通じて発想や開発ができるようになった組織にのみ、はじめて未来市場への扉が開かれ、コア・コンピタンス戦略開発の方向性が明確に見えてくるのではないだろうか。



◆参照文献:
Hamel, G. & Prahalad, C.K., Competing for the Future, Harvard Business School Press, 1994
(ゲイリー・ハメル&C.K.プラハラード著、一條和生訳『コア・コンピタンス経営―大競争時代を勝ち抜く戦略―』日本経済新聞社、1995年)


こちらでもご覧ください。
大きな文字で、読みやすくご覧いただけます。
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2010年04月16日

◆実戦感覚あふれるプロ経営者、三枝匡の戦略・改革理論





 三枝匡(さえぐさ ただし)という経営者がいる。

ボストン・コンサルティング・グループの日本人社員第1号を経て、企業再生のプロとして独立(三枝匡事務所を設立)。複数企業の再生を成し遂げた後、FA部品・金型商社「ミスミ」の経営者へと転身し、同社を超優良企業へと生まれ変わらせた人物だ。日本が誇る数少ない「プロフェッショナル経営者」である。

 私が彼を知ったのは17年も前になる。当時からコンサルタントや学者、経営理論のあり方に疑問を持っていた私であったが、そのような世界の出身ながら、事業の当事者となってしっかりと結果を出している人がいることを知って、強い感銘を受けたものである。

(それ以来、彼は私が目標とする一人になったのだが、仕事内容が酷似してきただけでなく、オフィスの名前まで似てしまった)


 さて、本コラムでは、三枝匡氏(以下、敬称略)が実体験から得た、企業改革・活性化を成功させるための理論や、現場を熟知するプロ経営者ならではのポイントを、彼の一連の著作から抜粋し説明していきたい。

なお、最初に断わっておくと、彼の理論は、あっけないほどシンプルで当たり前のことばかりである。それは実践・実行の徹底が念頭に置かれているため、必然的にそうならざるを得ないのである。一方で、戦略体系や組織単位など、改革の柱となる一つひとつの要素には一切の妥協や隙がないこと、および人間の能力を最大限に引き出すための実行フェーズにおける難しさが含まれることは覚えておきたい。


 さて、まずは、三枝理論のポイントを、ざっくりと「戦略・計画づくり」「組織づくり」「改革推進を支えるしくみ・施策づくり」「改革推進のエンジンとなる人材」の4つの視点から見てみることにする。



1.戦略づくりの視点

1-1.戦略のスペック

■ストーリーがあり、論理的にスキがなく洗練された形で構成されていなければならない。

■わかりやすく共有しやすいコンセプト・理論体系・哲学が組み込まれていなければならない。

■現場で骨抜きにならないようにするため、最上位の戦略から現場での実行を支えるツールまで(幹だけではなく枝葉まで)、ひとつの体系として徹底してつくり込まねばならない。


1-2.戦略・計画のつくり方

■(計画担当者やコンサルタントに任せるのではなく)戦略・計画を実行する当事者みずからが創出しなければならない。
→計画者と実行者をわけると、魂が込められたものとはならない。また、山あり谷ありの改革プロセスにおいては、うまくいかなくなると責任の転嫁が始まってしまい改革にブレーキがかかってしまう。



2.組織づくりの視点(改革理論のいちばんの要諦)

■ビジネスの基本サイクル「★創って、作って、売る」(図を参照)を力強く高速回転させることが改革の核心である。よって、これを組織の中核単位として組織設計を行う。

■人材や各種の施策・システム、制度は、この基本サイクルを支援することを前提に育成・構築されなければならない。



3.改革推進を支えるしくみ・施策の視点

■改革タスクフォースメンバーは、そのまま事業部やユニットの責任者となり、自分の組織をけん引しなければならない。

■気骨の人事(荒っぽくとも、前例のない思い切った人事)を断行しなければならない。

■説得をいとわない姿勢と毅然とした態度を両立させ、組織全体を巻き込んでいく努力を継続しなければならない。
→全員を巻き込む努力をいとわず、切迫感や危機感をできるだけ共有する。ただし、評論家的な態度を取る者や、新しいやり方に対して根拠のない抵抗を示す者に対しては、断固たる処置を取るべきである。



4.改革推進のエンジンとなる人材に関する視点

■タスクフォースの組成がカギとなるので、人選は改革先導者みずからが細心の注意をもって行うべきである。
→修羅場を経験した人間、あるいは、修羅場に耐え、経営・事業の因果律を肌で学びながら進化できる人間をいかに発掘し、結集できるかが最大のカギとなる。

■経営者の意識の変革、および嘘のない継続的な姿勢が必要である。
→みずからコミットする気のない経営者がいる組織の改革はきわめてむずかしい。また、思い切った人事を承認できるかがその人の本気度をためす踏み絵となる。

■改革先導者は「覚悟」を決め、それを人生の貴重なチャンスととらえ、ひたすら前進しなければならない。
→改革を重荷ととらえるか、大きなチャンスととらえるかによって周囲に与える影響が変わってくる。発言や態度がブレると、周囲はそれを敏感に察知し、不安を感じ始め、改革が減速し始める。



 やはり、これらの体系の中でいちばん興味深いのが、変革の決定打として、「ビジネスの基本サイクルである『創って、作って、売る』を力強く回せる組織をつくるべき」と断言している点、および、さまざまな施策やシステムがそれを支援するために組み立てられている点である。

よって、これに対する解説を中心に進めたい。


 まず、彼のこのシンプルな組織論については、「言い切り過ぎ」と感じるむきも少なくないと思う。しかし、実は「商売をしていることが肌で感じられること、このサイクルが力強く回転するサイズであること」は組織づくりの基本中の基本で、常に意識しておかなければならない最重要課題なのである。

経営学で学ぶ組織論では、しばしば事業部制や機能別組織、SBU、マトリックス組織などのモデルを並べて、どれがいい、悪い、といった議論が行われる。しかし、これらは、あくまでも、三枝が提唱する基本サイクルユニットの発展・応用形あるいは次善策ととらえるべきである。

つまり、これらの組織モデルは組織の大型化・効率化を実現する場合のやむを得ない手段なのである。したがって、こうした発展形の組織モデルを導入する場合でも、まずは三枝流の基本サイクルによって商売の感覚をしっかりと体得した人材を育成した後にすべきなのだ。さらには、評価制度や企業文化にもメスを入れ、商売に敏感な組織文化を醸成したうえで取りかかるべきなのである。

三枝は、これらを体験的に理解している。商売のサイクルが高速回転することで、社員の感覚が磨かれ、市場への対応力が高まり、それが顧客満足度や収益性の向上へ直結することを実戦を通じて熟知している。だからこそ、あえて、このシンプルな理論を「決定打である」と言い切れるのだ。

さらに言えば、こうしたゆるぎない見識を持ち、それを自在に使いこなして結果を出せることが真に高度な経営スキルあるといえる。分析に終始したり、経営手法・技法を設計したり、ロジカルシンキングに長けたりしているだけでは必要条件を満たしているに過ぎず、経営のプロと呼ばれるには程遠いということである。

われわれは、三枝の理論を理解すると同時に、常に妥協することなく結果を追求する、あくなき彼の姿勢もしっかりと学ばなければならないのではなかろうか。


 手痛い失敗を乗り越え、数々の実戦の修羅場をくぐりぬけてきた彼のメッセージが本質的に語りかけているもの、それは「安易に“道具”に頼るな」ということ、そして「まず、自分自身の視点や行動スタイルを確立し、常に結果に焦点を合わせて行動せよ」ということなのである。

 
◆参照文献
 『戦略プロフェッショナル』
 『経営パワーの危機』
 『V字回復の経営』
 『日本の経営を創る』/以上、日本経済新聞社
 『ハーバード・ビジネス・レビュー-07年1月号/三枝匡インタビュー』/ダイヤモンド社



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2010年04月15日

◆マッキンゼー、名和理論に欠けている"ソフトウェア"の視点



         ※某米国系産業用システム開発企業のCEOと、市場戦略について議論する私(写真左).



 私が知る限り、企業(特に日本企業)の強さの実態にかなり接近している戦略理論が、マッキンゼー東京オフィスの名和高司氏が提唱している「学習優位の戦略」である。

名和理論の骨子は、以下の5点である。根拠を説明する事例として、IBMやトヨタを取り上げ、そのメカニズムを解明しながら説明をこころみている。


◆(理論の前提として)情報の透明化や商品のディフェクトスタンダード化などが進化した今日の環境下では、よほどの差別的優位性や情報の非対称性がない限り、戦略そのもの(=すなわち古典的な戦略理論による戦略)による持続的な競争優位性を築くことはむずかしい。

◆事業コンセプトをいちはやく実践に移し、それを通じて顧客ニーズや事業の採算ポイントを学習行動によって吸収する。そうした事実情報に基づきながら、戦略の細部を練り上げていくことが重要である。

◆そのために、組織を生命体とみなし、「ゆらぎ=有機化」と「引き込み=自律化」を引き起こすような構造を、組織の特性をみきわめながらバランスよく埋め込み自己組織化をうながすべきである。

◆マネジメントの役割は、この「ゆらぎ」と「引き込み」が最適なかたちでバランスし、融合するような枠組みや情報提供の仕組みを与えることである。一方の現場は、それらが用意されれば、日々強い問題意識をもって現状の改善・改革にのぞむようになる。

◆(ポーターは、「日本の企業に戦略がない」としたが、実は)トヨタのような日本企業は、こういった学習行動を通じて、しっかりとある種の戦略ポジションに常に接近または位置し続けている。



 もともと戦略の立案、実行、最適化、革新といった一連のプロセスは、トップと現場の共同作業から成るものであり、どちらか一方が戦略のすべてを考えたり実行したりする、といったものではないというのが実務家の感覚であった。しかし、その枠組みについては、必ずしも明確ではなかった。

たとえば、ヘンリー・ミンツバーグ教授の創発的戦略論など、戦略の立案と実行を分離させるべきではない、といったことを提唱する人はいたが、必ずしもその役割分担やメカニズムは明確ではなかったのである。

このような状況で、マッキンゼー社のモットーである「企業の内側から見た視点」から、わかりやすく、ナチュラルな理論的枠組みを提唱したことの意義は大きい。派手な理論ではないが、われわれ戦略の実務に身を置く者にとって、ひとつの方向性を与えてくれるものとなっている。


 ただし、名和理論は、処方箋あるいは体系的な理論として見た場合、未完成な部分があることも指摘しておきたい。

まず、体系としての完成を阻んでいるのが、(相変わらずの※)マッキンゼー社ならではのスタンスである。同社の理論の特徴である、「上から目線」による、「組織構造という枠組みやくくりを与えることが、人間の諸活動を規定するための第一条件である」という思想が強く感じられる。

つまり、「人は、ある種の枠組みを与えてやれば、その中で競争原理に沿って自律的かつ健全に動く」という、(昔からの)同社の前提が感じられる。そして、依然としてこの視点から抜け切れていないのである。しかし、この前提は、普遍的に正しいとは言えない。


※同社はかつて、自社のクライアント企業に、競争原理に基づく事業部制やSBU(戦略ビジネスユニット)という「枠組み」の導入を数多く試みた。しかし、当初の想定と異なり、思ったように人が動かなかったり、逆に暴走したりと、かなりのケースで読み違いがあったのは、当時の関係者の多くが知るところである。


 では、どのあたりに問題があり、どこを補強すれば良いのだろうか?

名和理論、ひいてはマッキンゼー社の理論に共通する問題点として、組織のハードウェアすなわち組織形態や経営システムなどの「構造」に依存しすぎる傾向がある。さらに、人は「構造」を与えることによってしか動かない、といった前提がある。

しかし、これは「人間集団が音を立てて動くとはどういうことか」といった部分についての想像力や経験が必ずしも豊かではないことの証左である。ゆえに、戦略を実現するためにいちばん重要な“ソフトウェア”である「人を動かすメカニズム」への十分な考察や理論化がなされない。

たとえば、同じ企業内にいる人間であっても、思考的・行動的に成熟した人間、チーム、部門・部署と、稚拙なそれとでは、同じ戦略や組織の枠組みを与えたとしてもとらえ方が違い、動き方や成果が違ってくるのは当然である。組織はそのような集団が混在する「集団の集合体」であり、人間集団という“ソフトウェア”をいかに円滑に動かすかが重要なポイントになるわけだが、そのあたりに対する考察が欠けていると言わざるを得ない。

このようなことを述べると、「それは現場(オペレーション)や人材マネジメントの問題であって、戦略の問題ではない」といった反論があるかもしれない。しかし、戦略を「企業が成功するための、もっとも効率的かつ効果的な処方箋」と考えた場合、現場だ、トップだ、HRだ、などということ自体が間違いである。現に、ミンツバーグ教授のように「戦略のカギは現場と人材にある」と断言している人も少なくないのだ。

ましてや、名和理論は、「現場の人間集団の自律力や問題解決力が、戦略を磨きあげるためのもっとも重要な要素である」としているのだから、なおさら人間集団を十把ひとからげに扱うのではいけない。それらの種類や特性をふまえた、能力を最大限に引き出すための体系的方法論が合わせて提示されて然るべきである。

これが、名和理論が体系的な理論として成立していないとする根拠であり、同社の処方箋(コンサルティング)が、いまひとつ現場の人たちに響かない、といわれるゆえんでもある。

言い換えれば、現場を丹念に回り、それぞれの人間集団の特性を考慮し、それぞれに適合した(ゆらぎや自律的行動を誘発するための)仕組みや、能力を顕在化させるしくみを含んだ生態系をつくるつもりで取り組まなければならない。それなくして、真に組織の自律化や有機化は望めないのである。そして、この発想が欠如しているところに名和理論の弱さ、ひいては同社の弱さがある。


 以上、いろいろと批判を繰り広げてきた。しかし、それらを差し引いても、名和理論は、(ポーター理論など)学者などの表層的な戦略理論よりは、はるかに示唆に富んだものとなっている。また、個人的にもその人となりや仕事ぶりを知っているが、名和氏は同社のコンサルタントの中でも特に卓越した人である。


 オペレーション(現場)に近いところに「戦略を成功させる解」が潜んでいるのであれば、戦略や現場といった領域や階層にこだわらずに処方箋を追求していくべきであり、それが企業の成功指南役の使命でもある。

マッキンゼー社には、ブランドやスターコンサルタントに依存したやり方をアンラーニングし、「上から目線」ではなく、「組織が音を立てて動くことを第一義に、あらゆるレベルで支援やケアを行う」という意識を再構築してもらいたい。そして、問題解決者の先駆的存在として、名和理論をうわまわる、真に社会や産業のためになる理論の構築を目指してほしいと願う次第である。



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2010年04月13日

◆マッキンゼー、コートニーの不確実性対応理論を検証する

             


           ※図出典『不確実性の経営戦略』マッキンゼー他、ダイヤモンド社


 マッキンゼー社ワシントン事務所のヒュー・コートニー氏他2人が提唱する「不確実性レベル別対応型の戦略」という理論がある。

これは、不透明な経営環境の中で、先が読めるか読めないか、といった2者択一の短絡的な思考や対応に走るのではなく、「戦略の不確実性レベル」を正確にみきわめ、それによって「戦略スタンス」と「具体的な行動」を選択し、適切に組み合わせて対応すべきとする理論である。

以下、骨子を説明しよう。


基本構成は、前述の「不確実性レベル」に加えて、「戦略スタンス」「行動ポートフォリオ」の計3領域からなる。

まず、「不確実性のレベル」は、以下の4段階に分かれるとされる(上図「不確実性の4段階」を参照)。


【レベル1】:未来は十分にはっきりしている.

【レベル2】:未来が複数の選択肢に分かれる.

【レベル3】:未来の範囲を限定できる(未来はある範囲内に収まる).

【レベル4】:未来は完全に不確実である.



次に、上記4段階のレベルの業界・市場において、どういった姿勢で戦いにのぞむかを決める「戦略スタンス」が以下の3通りある。


【1.形成型】
 業界を自社に有利な新しい構造へと導くことをめざす。
→たとえば安定した業界に揺さぶりをかけるとか、逆に不確実性の高い業界に一定の秩序をもたらす行動を取るなどアグレッシブな働きかけを意図したスタイルである。

【2.適応型】
 現在の業界構造や将来の発展の姿を既定の条件ととらえ、チャンスや変化が見えてきたときに、それらに俊敏に対応していくことをめざす。
→たとえば、特殊な化学製品の製造機械や光学レンズなどは、何らかの兆候が見え始めてから自社の製品をカスタマイズし、市場に投入していくなどの対応が求められるであろう。

【3.留保型】
 後日のプレー権を留保しておくもので、適応型の変形である。
→市場の進化・構造の明確化を待たずに、小出しに投資を行ったり他者との連携や情報収集を行うなどして自社を「アイドリング状態」に維持しておき、不確実性が薄らいだり、何らかの方向性が見えてきたときに攻めに転じる。



さらに戦略スタンスを実現するための「行動ポートフォリオ」と呼ばれる、3つの選択肢がある。


【a.ビッグ・ベッツ(思い切った賭け)】
 多額の投資や買収など、思い切った行動に打って出ることである。当たれば見返りは大きいが、外れれば失うものも大きくなる。特に形成型ではこの決断が求められる場合が多い。

【b.オプション選択】
 最善のシナリオになったタイミングで最大の利益を確保しようとする一方で、最悪の場合でも損失を最小限に食い止める行動である。よくあるやり方として、新製品の本格導入の前にエリア限定でテスト販売をする、対抗馬である技術が本命になる場合に備えてそちらのラインセンスも取得しておく、などがある。留保型で多用されるが、形成型でもリスクヘッジの手段として使われることが間々ある。

【c.ノーリスク対応】
何が起こっても損をしない対応で、いわゆる安全策である。たとえば現行製品やサービスの不用コストを削減する、基本能力を高めるための関係部署の能力開発(問題解決スキルや管理スキルなど)を行う、などがよく見られる例である。完全に先が見通せる状態になった場合に多用される。



 これらの要素を最適に組み合わせて市場にのぞむべき、というのが論旨である。「わかる⇔わからない」「やる⇔やらない」といった2者択一的にとらえやすい不確実性や戦略行動を細かく分類し、ていねいに組み合わせることでリスクを低減し、戦略の成果をあげやすくすべき、とした主張は注目に値する。

また、戦略部門にいる人間のみならず、日々ダイナミックな市場の動きに対応していかなければならない営業やマーケティングなどの部門で働く人たちは、ともすれば近視眼的な対応に陥りがちで、みずから判断の選択肢を狭めてしまう傾向があるが、自分の施策を冷静に整理するための枠組みとなりうる、といった意味でも有意義な理論である。


 しかしながら、この理論を「複数の製品系列や顧客層を持つ事業体においてすぐに実行・実現できるか」という観点から見ると、問題点や詰めの甘さが目立つのも事実である。

以下、それらについて指摘していこう。


 まず、実際の経営の現場では、大きな範囲で不確実性レベルが明確に特定できたり、スタンスやアクションがすっきりと1つに統一できるものでないことは直感的に理解できる。

つまり、たとえば技術・製品系列や市場セグメント、地域やチャネルごとに細かくこれらの組み合わせを設定する、といった対応が求められるのである。

また、行動ポートフォリオにしても、この理論のようにすっきりと割り切って動けるケースはむしろまれである。実際には、たとえば「オプションの行使もにらみ、市場の反応を敏感にウォッチングしながらあるタイミングで思い切った投資に出る」といったように、微妙な判断や行動が混在するケースがほとんどである。

それは、この理論を厳密に適用しようとすると、複雑な戦略アクションの束(体系)ができあがることを意味する。すなわち、実践の段階においては、緻密な情報収集・分析などの作業や高度な判断力、バランス感覚、胆力などを常に複合的に用いられるスキルを身につけ、しかもその動きを同一チーム内で共有・展開できる人材が、一定量いなければ機能しないということである。

理論的なわく組み自体は、(いささか紋切り型にすぎるきらいがあるとはいえ)よく理解できる。しかし、実戦においては、むしろそのわく組みというハードウェアを機能させていくソフトウェア、すなわち高度なデシジョン・スキルを持った人材チームが求められることが大前提として存在する。つまり、成果を得るために避けて通れない大きなハードルとなるわけだが、これについての考え方は、この理論ではまったく触れられていない。

別言すれば、成功のためのキーファクターが抜け落ちているわけで、「ある行為を成就させるための理論」としては、とても完全なものとは言えないのである。

これはマッキンゼー社の理論の特徴でもあるのだが、示唆に富んだ枠組みは提唱すれど、それが実践されるための重要な施策(特に「戦略」というハードをドライブするソフトウェアとしての「人材」のあり方・開発方法など)や、実行フェーズにおいて想定される問題・リスクなどが欠けていることが少なくないのである。

(これが、同社の理論をそのまま導入した企業が、しばしば混乱する一因となっている)


 近年、戦略理論のみならず、あらゆる経営理論や手法には副作用があり、隠れた前提や制約が存在することが知られてきている。しかし、言うまでもなく、戦略の実務に携わる者は、学者や評論家とは異なり、あくまでも「責任を背負いながらそれを実践しなればならない人たち」の立場に立って理論を提示していくことを最優先にすべきである。

薬の処方や医療行為に例えて言うならば、服用の際の遵守事項や副作用、リスクなどについてのインフォームドコンセントが的確になされるべきなのだ。


 かつて、同社のOBも多く働く戦略コンサルティング会社に勤務し、マッキンゼーの仕事ぶりを頻繁に耳にしていた者として、率直な感想を述べよう。

 同社がこの姿勢をもって、総力をあげて理論構築にのぞんだとしたら、このコートニー理論はもとより、同社のほとんどの理論がさらに魅力的で人々の心に響くものになるのに、といつも思う。さらには、(弊害も目立ち始めた)現在の経営学のあり方をも変えてしまう可能性があるのに、と残念に感じられてならない。

しかし一方で、近年、かつてのカリスマやスターコンサルタントに頼らない、地に足のついたコンサルティング活動を行い始めているとも聞く。

改めて、同社の今後の活躍に期待したいと思う。




◆参照文献
 『不確実性の経営戦略』マッキンゼー他 ダイヤモンド社 2000年
 『マッキンゼー戦略の進化―不確実性時代を勝ち残る』名和高司、 近藤正晃ジェームス ダイヤモンド社 2003年



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2010年04月12日

◆創発アイデアで事業をドライブ~真の「戦略経営」の実践とは?

             ※創発戦略のイメージ...H.ミンツバーグ『戦略計画 創造的破壊の時代』より




 「戦略経営論」とは、事前に作られた戦略計画と、それを実行する過程で得られる、「創発」とよばれる新たなアイデア、知見、発見などがミドルマネジメントを通じて融合し、軌道修正を行いながら進化していくことの重要性を唱える理論である。

その前提として「事前に立てた戦略計画は不完全であり、予測に依存するのはリスクが大きい」とする考え方がある。

これについては正しい。

しかし、「当初の目論見から外れる現象が起き、修正事項が発生した場合、それを改善しながら進化する」といった行為は、企業や国家から個人に至るまで、人間の営みとして誰もが行ってきた自然な行為である。

これまでの「戦略経営論」はその延長線上にとどまっており、、スタティック(静的)な予測型の事業戦略理論に、その欠点を補完する形で、日ごろの活動から得られたアイデアや発想を取りいれましょう、といった考え方を付加しただけの理論体系で終わってしまっている感が否めない。


 企業組織においては、創発的アイデアは、意図的に開発・管理しない限り、他の事業部などへの水平的な応用展開や組織の上部あるいは下部といった垂直方向への共有・活用はなされない。通常、創発的アイデアは、個人あるいはその周辺の関係者の経験則として終わることも少なくなく、体系的な蓄積・活用がなされることは、決して多くない。

ゆえに、重要なのは、創発をどうマネジメントし、戦略および事業活動へと反映させていくかについての具体的な方法である。

それが必要とされるにもかかわらず、多くの「戦略経営論」においては、その方法が「ミドルの活性化方法」を述べる程度の理論で終わってしまっているのである。アンゾフ理論のように、創発的アイデアが発生した後の分析の手法・技法をやたらと組み込んでいるものはあるが、これも、創発それ自体の積極的な管理方法については曖昧なままである。

創発(すなわちアイデア)はそういうものだからこれで良しとすべき、という意見もあるだろう。

しかし、方法論は具体的かつ明快に語られるべき、といった本ブログの考え方からすると、従来の戦略経営論は、主要資源についての具体的な分析・活用方法が示されておらず、実戦性に乏しいものといわざるを得ない。


 さらに、戦略経営を行う際、必ずといっていいほど「計画」(静的管理)と「創発」(ダイナミズムの積極活用)のどちらに比重を置くかという問題が出てくるが、これに対する方法論が見あたらないのも問題である。

たとえば、計画重視型と創発重視型とでは、必要とされる人材特性(思考形態や行動スタイル)はもちろん、その評価の仕方や会計システムのスペックまでもが異なってくる。つまり、計画管理型の組織とアイデア重視型の組織では、組織構成要素に持たせるべき特質を統制型から開放型へと180度転換しなければならないのだが、これへの対処法も示されていない。

これまでの「戦略経営論」には、こうした具体的な施策が欠けている。つまり、「創発が必要」と述べておきながら「創発」を管理し活かすための仕組みや機能に関する論理が弱いのである。

組織というものは、よほど適切な形で「創発的アイデア」をマネジメントしていく仕組みがないと、すぐに停滞してしまう。それどころか、貴重な経営資源となる可能性を秘めた創発アイデアが「単なる思いつき」として処理されてしまい、かえって良いアイデアが表面化しづらくなるリスクが高くなる。

この点を正面からとらえて考えていかなければならないのである。


 では、創発的アイデアをどのようなしくみでマネジメントしながら戦略の推進体制を構築していくべきか?

前述したように、「計画型」と「創発取り込み型」のどちらに比重を置くかで、組織の運営方法や必要とされる人材特性、経営システムまでもが異なってくる。

従って、当初戦略の立案プロセスはもちろん、人材育成方法や評価制度、情報・会計システムをワンセットで整備し直すことが必要となる。

たとえば「創発重視型」の戦略運営をめざす場合、創発的アイデアのマネジメント体制はもとより、それを生み出し実際に展開する従業員の「チャレンジングな姿勢の促進」が必要になるのは言うまでもない。さらに、それを支えるしくみとして「チャレンジの結果(特に「失敗」)を科学的・客観的に評価するシステムやノウハウの開発」も欠かせない。

(「計画重視型」の組織構築方法については既に多くの文献が出回っているので、そちらを参照いただきたい)

また、チャレンジを支援する情報面からの支援体制、アイデアを実践し具現化するスキル、アイデアを試すにあたり、事前に失敗のリスクを低減させるための仮説構築スキル(本ブログでも紹介した因果律ループによるシミュレーションや経済性計算などのテクニック)も積極的に開発していく必要があるだろう。

さらに、市場に近いところで働く社員のモチベーションやスキルアップをはかるため、発想の転換、およびコーチングやメンタリングなどの要素を加味した「管理職のマネジメントスキルの再構築」も見落としてはならない領域である。

すなわちこれらをワンセットで、体系的に開発していくことが重要になる。いわば、まったく新しい循環構造を自社内にビルトインしていく、といった視点が必要になるのである。


 ところで、「新しい循環構造の開発」というと何か大がかりでむずかしい取り組みをしなければならないように思えるが、実は、戦略経営を実現している多くの企業は、従来の経営学が提唱するような、複雑な事業機能やシステムをズラッとそろえているわけではない。

むしろ各機能(戦略、人事方針、R&D、マーケティングなど)はシンプルなつくりになっている例が多いのである。

そして、これらの企業に必ず共通しているのが、「個を生かす人材育成」を行っている点、および各経営機能のベクトルをそろえ調和させることで「機能間シナジーを生み出し、戦略推進にドライブをかけている」といった点である。

こうした構造は、実は、シンプルな視点からの見直しが可能である。

簡単な方法としては、自社の人材開発方針、ビジョン&ミッション、企業戦略などの重要な概念にむけて、各機能のベクトルやアーキテクチャ(設計思想)がそろっているかを検証する。

そして、検証を経て特定された改善箇所を克服していく際には、さまざまな角度からの情報を取り入れて改善策を立案し、あとは情報と意識の共有を密にしながら、しつこく、粘り強くPDCAサイクルを回して進化を志向し続けるだけである。


 ダイナミックな戦略経営を実現するために、

   ◆「自社組織を構成する人材要件、事業機能やシステム、制度やノウハウがひとつの方向を向いているか」

   ◆「上記の要素がお互いに良い関係(循環構造)になっているか」

   ◆「戦略をドライブしていく人材が、科学的にチャレンジできるための意識やしくみが開発されているか」

という素朴な観点から、自社組織を網羅的に診断してみることをおすすめしたい。かならず改善ポイントや、効果的な戦略推進のためのヒントが見つかるはずである。




◆参照文献:

・Garth Saloner, Strategic Managemen, Wiley, 2000
(ガース・サローナー他(石倉洋子訳)『戦略経営論』東洋経済新報社 2002年)

・H. I. Ansoff, The New Corporate Strategy, Wiley, 1988
(H.I.アンゾフ『最新・戦略経営』産能大学出版部 1992年)

・十川広國編著『経営戦略論』中央経済社 2006年

・十川広國著『戦略経営のすすめ~未来創造型企業の組織能力』中央経済社 2000年

・中村元一他『実践・戦略経営診断』ダイヤモンド社 1994年



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2010年03月25日

◆二次情報に立脚した“学者理論”の妥当性を考える



              ※写真左から、日産のゴーン社長、メガネ21の平本氏、
               マクドナルド原田CEO、1人おいてユニクロ柳井CEO、ディーエヌエー南場社長


 本コラムでは、主に、文献や各種のメディアなどから得られる「二次情報に依存して組成される2つのタイプの経営・戦略理論」について議論したい。

 経営・事業戦略理論を「出自」という切り口で大別すると、主に経済学のフレームをもとに発想した「経済学モデル依存型」と、成功例を現象追従的に観察した「成功事例集約型」の2種類に大別される。いうまでもないが、これらのタイプに限らず理論構築の際には、理論生成の際に利用される情報やモデルが「ファクトである」あるいは「臨床的にその有効性が実証されている」ことが(少なくともある程度は)担保されていなければならない。

たとえば、経済学モデルであれば、当該モデルの有効性が世の中の経済活動において実証されている、すなわち、ある変数に対して働きかけを行うと、そのモデルにおいて相関関数として設定された変数が動き、想定した通りの変化が起きることが証明されていなければならない。

しかし、これらのモデルは、当の経済学の分野においてさえ現実的ではないと批判される前提条件を抱えているものが少なくない。少なくとも経営のレベルに適用するにはあまりにも非現実的な前提が多すぎるゆえ、特にダイナミズムを含む経営・事業戦略理論の素材とするには適切とはいえない部分を少なからず含んでいる。そして、そのような状態のまま経営・戦略理論に転用されている例があまりにも多いのである。


 一方の成功事例集約型の経営・戦略理論についても、その存立基盤となる情報への疑念はぬぐえない。スタンフォード大学ビジネススクールのフェッファー、同エンジニアリングスクールのサットンによれば、生き残った会社、特に大成功した会社だけを取り上げて、何が良い手法かを考えようとすると、大変大きな間違いを犯す危険がある、とズバリ指摘する。

両教授いわく、

「リスクが高く、普通とは違った戦略を取る会社は、普通の会社と比べ、大成功するか大失敗するかのどちらかだろう。会社の資源を限られた範囲の商品に集中させる戦略は、全部の卵を一つか二つのカゴに入れてしまうのと同じでリスクが高いが、そうした難しい戦略を取って大成功している会社だけを取ってみれば、資源を集中する戦略がいつも良いように見える。こうした間違いを犯さない唯一の方法は、成功した会社だけでなく、失敗した会社にも注意を払い、なぜ失敗したかを理解することである」

ということである。


また、両教授は、

「(経営の)グルは往々にして経営の難しさを単純化し過ぎるきらいがあり、新しい手法の実践について、あたかも機械を設置するかのように言うのは大変危険である 」

とも述べている。


 さらに、スイスIMD教授のローゼンツワイグも、成功例だけを取り上げて一般化を図ることの危険性を指摘している。同教授いわく、

「従属変数にもとづいた標本抽出、すなわち結果に基づいたサンプル調査は間違いであり、たとえば高血圧の原因を探る際、高血圧の患者のみならず、血圧の高くない人の調査を行い、それらを相互比較することで初めて原因がわかる」

としている。

さらに同教授は、このようにも言い切っている。

「雑誌や新聞、刊行物、経営者に過去を振り返ってもらう形でインタビュー、などの二次情報や方法はハロー効果にゆがめられている可能性があり、このような情報をいくら集めても意味がない」


 これらの主張の意味するところは、偏ったサンプルを集約して抽出されたモデルや理論は、少なくとも汎用的なものにはなり難いこと、リスクと隣り合わせになる可能性があることを示唆している。さらに、二次情報を過度に用いることは、誤差を累積させることにつながり、「真実の姿がゆがめられる」恐れがあることを示していると解釈することができる。

そして、多くの理論は、この二つの方法を同時、またはどちらかに(過度に)依存しながら用いている。こうしたプロセスを経て組成された理論のすべてに問題があるとはいわないが、少なくとも、実態を正確に表しているか、リスクの高い前提が潜んでいないかを注意深く見る必要があると考えるのが妥当ではないだろうか?

特に、現代の経営においては、事業体の内部で生成される、独自のノウハウや視認が難しい資産(インタンジブル・アセット)が企業競争力の源泉となってきている。ゆえに、他の学問のわく組みをあてはめて一般理論化されたものや現象の観察のみに依存した理論には特に注意を払い、その前提や自社にとっての意味合いを熟考したうえで取り入れたり、参考にしたりする姿勢が、以前にもまして重要になってきている。


 私なりの結論を述べよう。経営理論を有効活用するための最も有効な処方箋は、当ブログでも繰り返し述べているように、まず、自社独自の「腹に落ちる」経営理論や戦略フレームワークづくりに知力をふりしぼってチャレンジすることである。そして、実践を通じてこれらを進化させるための「手段」として、経営・戦略理論や各種情報の取捨選択を行い、自社にとってのエッセンスを抽出し吸収する、といった学習スタイルを確立することが正しい経営のあり方であり、実務者のあるべき姿である。

別言すれば、知識をわが社独自の「知恵」に昇華させるスキルを何よりもまず確立しなければならないということである。

われわれ実務者は、この姿勢なくして理論(知識)の有効活用はあり得ないこと、および優れた経営者は理論や手法に依存する前に「自分の頭で考え抜く」というやり方を第一義に経営を行ってきているという事実をしっかりと理解し、明日からの実践に取り組んでいきたいものである。


 なお、ある理論を検証するための手軽で効果的な方法としては、本ブログでも取りあげた「因果律ループ図」などの動的なツールを用い、「当該理論を導入するとどういった因果律で何が起こるか」をシミュレーションしてみることが有効である。

このとき、まずはワークショップ形式などにより、定性的評価を中心とした喧々諤々の議論を通じて大筋の因果律を洗い出し、改めて、随所にデータを絡めていくつかの因果律のパターン(想定シナリオ)を特定していく、といった順序で行うと良い。自社の意外な特性や長所・短所が見えてくる場合がしばしばあるので、この意味においてもおすすめの方法である。



◆参考文献:

Pfeffer, J., & Sutton, R.I., Hard Facts, Dangerous Half-Truths, and Total Nonsense: Profiting from Evidence-based Management, Harvard Business School Press, 2006
(ジェフリー・フェファー&ロバート・I・サットン著、清水勝彦訳『事実に基づいた経営―なぜ「当たり前」ができないのか?―』東洋経済新報社、2009年)

Rosenzweig, P., The Halo Effect, ... and the Eight Other Business Delusions That Deceive Managers, Free Press, 2007
(フィル・ローゼンツワイグ著、桃井縁美子訳『なぜビジネス書は間違うのか―ハロー効果という妄想―』日経BP社、2008年)



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